Ver.5/第22話

「さて、エキシビジョンマッチもいよいよ大詰め。8戦目と9戦目を残すだけとなりました。ここまでの戦績は魔王チームの7戦全勝。勇者チームも一矢報いたいところであります」

 魔王チーム優勢なのは事前の予想通りとはいえ、ここまで偏るとは思っていなかった者も多い。

 そうした雰囲気もあったことから、次に登場した勇者チームの士気も高かったのだが、この抽選の途中、画面の中に異変が起こっていることに気づく者がチラホラいた。

「ん? 今まで、★マークのボールなんて入ってたか?」

 箱の中はすでに上位の魔王しか残っていない。3回以上の登場もあるものの、15個しか入っていなかったこともあり、数が減ったからか、数字ではなく★印の入ったボールが混ざっていることに気づいたのである。

 そうかと思ってみていると、早速そのボールを引き当てた勇者が現れた。

「おーっと? ★印のボールです。これは……、どういうことでしょうか?」

 実況も、知らされていない展開に戸惑いを見せる。

 実況も知らされていないのだから、引き当てた勇者もどうすればいいのか挙動不審になっている。

 そんな中、解説を務めていた白石がマイクを取った。

「おめでとうございます! その★マークを引き当てた方々には、サプライズボスに挑戦していただきます!」

 この言葉に、客席から大きな歓声が沸き起こり、闘技場の上で戦いを待っていた勇者チームからは、驚きから来る苦笑いが発せられる。

「と、申しますと?」

 白石の言葉に、実況は打ち合わせもなかったというのに、素早く反応した。

「はい。今回のためだけに、特別なフルレイドボスをご用意しました。こちらは、時間無制限、アイテムの使用も無制限で戦っていただこうと思います。とはいえ、アイテムはすぐには準備できないと思いますので、こちらで用意した物を準備中に配布いたしますので、ご安心ください」

「今回のためだけに、ですか? どのようなボスなのでしょうか?」

「そうですねえ……、あまり多くを説明するのは野暮だと思いますので、とにかく強い、とだけお伝えしておきます」

 白石の言葉が闘技場の上で待っている勇者達にも届き、期待半分、不安半分の表情を作る。


 そうやって登場したのは、ゼロス。

 フルレイドボスにしては、小さいサイズのモンスターだった。それでも、ノーマルレイドボスよりは大きい。

 系統的には悪魔、もしくは堕天使といったところだろうか。

 背中に真っ黒い羽を13枚生やし、1つの頭に6つの顔を持つ。6つの顔は人、狼、狐、兎、猿、牛とあり、正面を捕える人の顔には第3の眼が怪しく光る。腕は2本しかないが、両手に片手剣を持っていた。

 見たことのない姿形に、観客も興味津々の様子だ。

 どのような攻撃をしてくるのか、全くの未知。対峙する勇者チームは、適度にバラけて、油断なく謎のモンスターを観察していた。

 そうして、程なく戦いが始まった。

「今、戦いの幕が上がりました! そして、先に動いたのはゼロス! 何やらスキルを発動し、バトルフィールド全体に干渉したようです」

 ゼロスの行動に、勇者チームは瞬時に反応する。

 ……が。

「は? エンチャント?」

 フィールド設置型の攻撃は即座に発動し、広範囲で効果が発揮される。ダメージもなければ、状態異常も確認できない。

 何が起こっているのか判断に迷っているうちに、ゼロスは次の行動に移っていた。

「ゼロス。再びバトルフィールドに何やら干渉したようです。おおーっと! 今度は、相手を束縛してきました。勇者チーム、テイムモンスターも含めて、誰ひとりとして動けない模様!」

 こうやって勇者チームが何もできないでいるうちに、ゼロスの顔に変化が起こっていた。首を捩り、人面から狐面へとその姿を変化させたのだ。それに合わせるように、両手に持っていた武器も片手剣から魔法書へと変化する。

 続いて、ゼロスは魔法書を掲げるように何かのスキルを発動させる。

「エンチャントが消えた!」

「違う! 奪われたんだ!」

 勇者チームの何人かが声を上げる。そして、その中には、この先の展開を予想し始めている者も散見された。

 それは、客席で観戦していた者も同様である。

「おいおい。これって……」

 果たして、彼らの予想は的中することとなる。

 続くゼロスの行動が召喚魔法だったからである。

 そして、召喚されたのは6つ首の巨大なドラゴン。エンシェントヒュドラであった。

 ここまでくれば、自分達が誰を相手にしていたのか誰もが悟った。


「「「「「中身、ハルマじゃねーかっ!!!!」」」」」

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