Ver.5/第21話

 参加希望者は事前に募集してあったので、勇者チームは時間帯によって順番がすでに決められている。

 戦闘時間は最大でも10分に設定されており、それまでに勝敗が決まらずとも試合終了となる。エキシビションマッチであるので、決着がつくかどうかは重要ではないのだ。

 勇者チームに参加するプレイヤーの抽選はすでに終了しており、後は順番通りに登場して、対戦相手を決めるだけだ。時間の都合上、9試合で打ち止めとなっている。魔王は30組しかいないので、2巡目もある。そして、2巡目には上位15組に絞られた魔王だけが残ることになっている。

 つまり、7戦目以降の方が手強い魔王軍となる可能性が高いのだが、実際は5戦目以降が対象になる。

 というのも、魔王は30組しか参加しないので、5戦目が終わった時点の残りが6戦目に投入されると、6戦目に抽選する必要がなくなってしまうからだ。それでは、少しもったいないので、15番目以降の魔王であっても7戦目以降に登場する可能性も残されているのだ。とはいえ、全員が一度は戦えるように、5戦目以降は抽選ボックスの中は――5戦目の抽選で、1人目にはボックスの中に10個だけボールを残し、4人目になったら22個に増えるといった方法で――ある程度操作されることは、事前に知らされている。

 むろん、これに対抗できるように、勇者チームの参加者も勝率の高い者が多くなるように調整はされている。

 しかし、このルールには、参加している魔王と開発運営陣しか知らされていない隠しルールが存在しているのだが、それを知ることになるのは、ほんの少しだけ先のことである。


「ああーっと! 1番です! ついに1番のボールが引き当てられました!」

 エキシビションマッチが始まり、5戦目のことだった。

 実況の声が響き渡り、同時に客席からも大歓声が上がった。項垂れているのは、闘技場の上に集まった勇者チームの面々だけだ。

 抽選ボックスから引き当てられた1番のボール。それが意味するのは、勝率1位の魔王が登場するということであり、今回の勝率1位は、誰あろう業火の大魔導士と称されるようになっているネマキである。今回、唯一参加している全勝経験者。

 2敗したとはいえ、堂々の勝率1位だったのだ。

 ちなみに、箱の中も観客には中継されている。衆人環視によって、対戦相手は操作していないことを示すためだ。

「5戦目の抽選結果が出ました。21、1、30、12、15と、魔王ネマキが参加するとはいえ、そこまで上位陣に偏った数字ではありませんので、勇者チームも奮闘が期待されます」

 実況の言葉の裏には、4戦終わり、予想通り魔王軍の全勝が続いているため、反撃開始の期待が込められている。とはいえ、30位といえども、〈魔王イベント〉の30位である。トッププレイヤー中のトッププレイヤーであることは間違いない。

「ふっふっふ。ネマキちゃん達と一緒とはツイている」

 抽選が終わり、魔王軍も闘技場に登場し、わずかばかりの作戦タイムが設けられる。そんな中、スズコは腕を組んで不敵に笑みを浮かべていた。

 本人達もびっくりしているのだが、彼女達は強かった。

 600組の魔王の中にあって、36位という好成績を収めていたのだ。実はこの成績、ナイショやチョコットといった〈大魔王決定戦〉参加組よりも上の順位なのである。今回のエキシビジョンマッチに参加できるのは30組までだったのだが、ダメ元で応募した結果、予想以上に不参加の魔王が多く、ギリギリ30番目に滑り込んでいたのだ。

 当然、運も味方につけた結果によるものだと自覚していた。スズコ達は初魔王。警戒も研究もされておらず、注目度もゼロに等しい状況での参加だったのだ。すでに名の通った魔王よりも成績が良くなるのは、決して不思議なことではなかった。

「こっちもスズちゃん達が一緒なのは心強いってもんだよ。ゴリとガッツンの耐久力も、スズちゃん達の火力も期待してるよ」

 ネマキのパーティメンバーである盾職が同調する。

 そもそも、勝率だけを見れば、14位から42位まで変わらない。今回は、このイベントのために明確に順位をつける必要があった。そこで、同じ勝率の中でも差をつけるために、対戦相手の勝率が使われることになっていたのだ。つまり、1勝しかしていない勇者に勝つより、2勝している勇者に勝つ方が高ポイントになる、といった計算方式である。

 他にもパーティ人数などいくつかの項目が複雑に関連しているのだが、順位は明確に決められているとは言っても、正直、今回参加している魔王達の実力差は微々たるもので、誤差の範囲だと思われている。

 そして、ほとんどの者がそう感じている最大の理由が、ハルマもモカも参加していない、という事実に帰結する。

 こう思っているのは、ネマキ達も同じなのだ。

 つまりは、誰と同じ組になっても戦力に大きな変化はない。故に、気心の知れた者と共闘できることをラッキーだと思えているのだ。

「作戦はどうする?」

 魔王のひとりが、それとなく口にする。向かう視線は、当然というべきか、ネマキに集まる。

 こういう時は、順位が一番上の者が自然とリーダーになるものだ。

 それに、作戦を聞くには聞いたが、すでに答えは決まっているようなものであり、ただの確認でもあった。

 その証拠に、答えたのはネマキではなく、スズコが先だった。

「そんなの。皆で時間稼いで、ネマキちゃんの魔法でドーン! ってのが、派手で見応えもあるでしょうね」

 勝つことが目的ではない。スズコはそれを理解している。

 もちろん、負けるつもりはないが、それよりもエキシビジョンマッチに相応しい華やかさの方が重要だと思っている。

 スズコの案に、ネマキが了承するよりも先に、他の魔王も「だよな」と、微苦笑を浮かべていた。彼らも、観客が何を求めているのかは、肌で感じ取っているのだ。自分達に興味は向けられていないな、と。

「ふふふ。あんまり気乗りはしないけれど、ここいらで派手なのをお見せしましょうか。ミコトちゃんを借りるわよ?」

「オッケー。ネマキちゃんのすんごいの、期待してるよ」

 こうして、ミコトとミコトのテイムモンスターであるソアラのバックアップも受けて、この日、〈魔王イベント〉本戦でも見ることのできなかった、超特大の火炎魔法が華々しく展開されることになったのだった。

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