Ver.5/第18話

「よっしゃ! 25分でヴァンパイア出現! 50分切れるよ!」

 スズコは歓喜の声を上げるが、前回、この時間にはハルマはクリアしてしまっていることは無視する。あれは例外中の例外。

 難易度としては、バランス調整が絶妙だったのか、前回とほぼ変わらなく感じている。つまり、最終的にボーダーラインは50分台前半になることが予想できた。

 つまり、50分を切ることができれば、ほぼ安全圏と思われたのだ。

 ボス部屋の前で合流し、消耗したMPを回復させた後、素早く駆け込んだ。


 中央の広場に走り込むと、空が急に暗くなっていた。これも、スズコ達には見慣れた演出だが、ナツキとノジローはいつもの陣形を取りながら周囲を観察する。この辺は、スズコの教育の賜物である。

 全員の戦闘態勢が整うのを待っていたように、闇にコウモリが集まり出すと、一拍の間を置いて、パッと飛び散り、中からイベントボス、ヴァンパイアが出現した。この演出も、前回と全く同じである。

 当然、戦闘も激しいものとなった。

 3ヶ月前のボスながら、しっかりと調整が入り、物理、魔法どちらの攻撃も強力である。前回使わなかった範囲攻撃もいくつかあり、ミコトが回復に回る時間も増える。ただ、今回は攻撃に回れる人数も増えているため、相手のHPを削るペースも早い。順調にダメージを重ね、10分も経たない内に残りHPは鬼門の25%を下回った。

「来るよ!」

 ここで変化が起こることは事前に情報を仕入れている。前回も、このタイミングで城内に残っていたスケルトンを招集し、自身を回復させる糧にしていたのだ。今回も同じような行動パターンが用意されていることは、最初から織り込み済みだったのは誰もが同じだろう。

 ただ、前回と違うのが、招集されるのがスケルトンだけではないということが追加情報で判明していた。

 回復に使われるのはスケルトンだけなのだが、スカルアーチャー、スカルナイト、ワイトも決まった数が召喚され、ヴァンパイアと共闘を始めるのである。

「けっこう残ってるわね」

 ヴァンパイアを討伐すれば、他にどれだけ残っていても討伐完了となるのだが、まずは回復される前にスケルトンだけは排除しておきたい。

 前回は、このタイミングで〈ダークネスカーテン〉を食らって、暗闇の状態異常に陥り、回復を許してしまったことがある。その辺もしっかり対処しながら、一時的にヴァンパイアの相手をゴリとガッツンに任せて、他のアタッカー陣で周囲に集められたモンスターの排除に向かうことにする。

 この時、指揮を取るのは、スズコではなくノジローと決めていた。

「ナツキさん、ミコトさんにタゲが集まってるので、カバーお願いするっす! スズコさん、そっちにジャックとファングでスカルナイト追い込んでるので、まとめてお願いするっす!」

 あわあわとノジローが指示を飛ばすが、内容は申し分ない。ノジロー自身もブーメランを使って広範囲のスケルトンの数を減らしつつなので、むしろ上出来だ。

 これもあって、スズコもこの5人での挑戦が最適だと考えていたのだ。

 思わぬ拾い物。ぬっふっふとスズコの悪だくみを乗せた笑みがこぼれたのも今は昔である。

 ゴリとガッツンがヴァンパイアの動きを止めているので、スケルトンによる回復も阻害できている。

「スケルトンは粗方排除できたっす。回復は割り切って、ヴァンパイアに集中しましょう!」

 遠距離からスカルアーチャーの攻撃が続いていたが、それはAGIの高いジャックに任せて、残りはヴァンパイアの討伐に再び動き出す。

「ナツキも〈憑依〉で火力上げて! このタイミングで最後まで持たなかったら、どの道時間切れだから!」

 戦闘開始から10分が経過しようかというタイミングである。

 ナツキは言われるまま〈憑依〉を使い、ディーと一体化する。これによって各種ステータスは合算され、一気にナツキの火力が跳ね上がる。当然、デメリットもあるのだが、ゴースト系の弱点がそのまま引き継がれる点は、アンデッド系が相手だとほとんど気にならない。何しろ、弱点属性はほぼ同じなので、使ってくることはないからだ。

「ゴリ! このまま最後まで踏ん張れるわよね!?」

「情報通りなら問題ないはずです!」

 様々なスキルを使って軽減しながらも、ダメージは大きかったが、経験上耐え切れると判断する。

「それじゃあ、ナツキをメインアタッカーにして、一気に攻め落とすわよ!」

 勝負の流れを読む力、その流れに乗る嗅覚、そういった部分はまだまだノジローよりもスズコの方が優れている。

 こうして、戦闘時間15分ジャストで、ヴァンパイアは消失し、結界装置を止めるカギを落としていった。


「さあ、こっからが最後のひと踏ん張りだよ! MPに余裕はあるでしょうね?」

 前回は、この後は結界装置を見つけてカギを使うだけだったのだが、今回は一味違う。モンスターの行動パターンの変化の一環として、外に残っていたスケルトンの1割が、結界装置を置いてある部屋に集合しているのだ。

 これは、全滅させる必要はないのだが、スケルトンしかいないとはいえ、A門からやってくるだけでもかなりの数になるため、結界装置に近寄るだけで一苦労なのである。

 残ったMPを使い、大技を出し惜しみなく連発して、どんどんスケルトンを駆逐していく。それでも、次から次にスケルトンは押し寄せてくる。

 この押し合いを乗り越え、ついに結界装置を止めることに成功した。


「「「「「やっ!?」」」」」


 視界に表示されているタイムは48分47秒。現状、トップ30位内の高タイムであった。5人は、声を出すよりも先に、拳を握り締め、ガッツポーズを作る。

 そして……。

「「「「「ったーーー!!」」」」」

 歓喜の声が天に駆け抜けた。

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