Ver.5/第19話

 悲喜こもごもの〈魔王イベント〉の予選が終わり、7月の上旬に本戦が開始されることになった。

 公式放送で伝えられていた通り、ルールの詳細は今までよりも数日遅れての発表となったが、結局、日程以外は前回と同じものに落ち着いたようである。

 そして、いざ〈魔王イベント〉の本戦が始まると、多くのプレイヤーが驚きの声を上げることになっていた。

「え!? 大魔王、出ないの?」

「待て待て、ハルマだけじゃなくて、モカもテスタプラスもマカリナも名前ないぞ?」

「どういうことだよ!?」

 予選免除であったために、余計に驚きが大きかった。

 事情を知らない者からしたら、大事件である。

 しかし、ハルマとマカリナが出場を辞退した理由は簡単なものだった。

 ガッツリ期末テストと時期が重なってしまったからである。

 こればかりは、どうしようもない。

 ハルマがテスト期間なのだから、チップ、アヤネ、シュン、ユキチも同様である。そのため、最初から魔王になるのは諦めて、勇者として参加できる権利だけ取って不貞腐れていた。

 そんな弟達を、今回初めて魔王の権利を得たスズコが煽ってきたのは言うまでもない。

 高校生達が不参加を決めたのとは別の理由で辞退したのは、モカとテスタプラスだった。

 モカは、シンプルに仕事の繁忙期と重なり、期間中、8回以上の参加は困難と判断して辞退していた。もともと、こういうことに執着するタイプではないので、あっさりしたものだ。

 しかし、テスタプラスの辞退理由は、一味違うものだった。

「うちのパーティメンバーの半分が、来年大学卒業でしょ? 実は〈大魔王決定戦〉の後には、パーティを解散することは、決めてたんだよ。でも、思わぬ形で魔界に行けることになったから、それまで延期してただけなんだよね」

 彼らは8人そろってこそ真価を発揮する。

 ひとりふたりなら質は下がるものの替えが効くが、4人となると話が変わる。

 盾職のキナコとレッドスタ、魔法職のチヒロ、中衛職のリタが抜け、新メンバーを育成しなければならなくなったのだ。

 もともとサポートとして入ってくれていた者もふたりいるのだが、正式加入するわけではなく、そのままサポートメンバーとして手伝ってくれるだけのようだ。

 それでも、スズコ達にナツキやノジローが加わったように、新戦力は育っている。ただ、〈魔王イベント〉に参加できるほどではない。そもそも、シード権も、〈大魔王決定戦〉に参加したパーティメンバーにしか適用されないのである。


 結果、〈魔王イベント〉は、些か盛り上がりに欠けるものになってしまった。

 ハルマの非常識な戦力による蹂躙も、モカの圧倒的な破壊力も、テスタプラス達の見事な連携も見ることができず、観戦するプレイヤーもどことなく物足りなさを感じていたのだ。

 その中にあって、ひとり気を吐いたのがネマキである。

 モカにも劣らぬ最大火力を遺憾なく発揮して、やってくる挑戦者を次から次に屠っていったのだが、テスタプラス達に負けた戦いを視聴されたのが痛かった。

 ネマキ対策を万全に整えたパーティを相手にして、2敗してしまったのである。

 ナイショ、チョコット、ニコランダといった〈大魔王決定戦〉参加組も奮闘したものの、全勝とはならず、今回、初めて全勝プレイヤーが誕生することなく幕を下ろすことになったのだった。


 しかし。


 今回の〈魔王イベント〉はこれで終わりではなかった。

 最終日に、公式放送で伝えられていたエキシビジョンマッチが用意されていたのである。

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