Ver.5/第13話
「あれ? ハルマさん、来てたんですね」
モヤシの村を一通り見て回って居住区に戻ると、グダ達と遭遇した。もともとは、イースターイベントの時に、ハルマとフレンドになったのだが、モヤシと意気投合し、ここに家を造ることにしていたのだ。
「久しぶりー。しかし、さん付けはやめてくれよ。同い年なんだからさ」
「はっはっは。そうは言っても、不落魔王どころか、大魔王になっちゃいましたからねえ。畏れ多いってやつですわあ」
「ほんと、ヤメて……」
「まあ、冗談は、これくらいにして、聞いたよ。三皇の連中、PVPエリアから追い出してくれたんだって?」
グダは、愉快そうに笑みを浮かべる。グダ達としては、三皇の集団に、実際にPVPを仕掛けられて、酷い目にあった経験があっただけに、ハルマの対処に溜飲が下がる思いだったのだ。
ところが、ハルマからは思わぬ反応が返って来た。
「ん? いや? そんな面倒なことに首は突っ込んでいないはずだが?」
一瞬、三皇とは? と、本気で首を傾げた後で、コロシアムでコテンパンにした相手のことだと思い出すも、身に覚えがないことに変わりはなかった。
「え? そうなの?」
グダも、あまりに自然な物言いに、自分の仕入れた情報の真贋を先に疑ってしまった。しかし、仕入れ先がスズコとチップなので、いい加減な情報ではないと確信していた。
「ちょっと待って。グダさん、だっけ? たぶん、その認識で間違ってないよ。あたしの勘だと、この大魔王の方が、ズレてるだけだから」
マカリナの言葉に、ハルマもグダも怪訝な顔になる。
「やっぱり……。あの時の宣言、その場しのぎのテキトーな約束だったんでしょ?」
短い付き合いだが、マカリナもハルマのことが少しだけわかってきているので、ジト目を向ける。
『この人達からツクモ紙を10枚集められたら、相手してあげますよ』
マカリナの推論の通り、退散したくてもできないでいる内に、コロシアムに詰めかけていた観客からも対戦の申し出が殺到してしまったために、体よく断る口実が欲しかっただけである。
ハルマとしては、あの場にいたプレイヤーの情報なんか知りもしないので、実際にツクモ紙を10枚持って来られても、確かめようがないのが本音だ。そもそも、ハルマへの連絡手段もないのだから、実行する人間なんかいないだろうと、勝手に思っていたのである。
「もしかして……。あの約束、本気だと思ってるの?」
今になって、事の重大さに気づかされたわけだ。
「そんなことだろうと思ったわよ。あの時の宣言は、あの場にいたプレイヤーだけじゃなくて、人伝に聞いたプレイヤーにも有効よ。全く、ハルにその気がなくても、あたしまで参加しなくちゃいけないんだから、勘弁してほしいわよ」
この際だからと、マカリナも不満を告げておく。
「えええ……。マジかあ。ごめん」
これには、ハルマも軽率な行為だったと、ガチ凹みである。
……が。
すぐに周囲から笑いが起こる。
「ふふふ。冗談よ。さっき、グダさんも言ったでしょ? あいつらPVPエリアから追い出されたって。正確に言えば、撤退していった、だけどね」
「そうそう。その約束が生きてるからこそ、あいつらはPVPエリアに入れないんだよ。今までは、集団で狩る方だったのに、ハルマのおかげで、集団で狩られる立場に逆転したんだから。けっこう、多くの人が感謝してると思うぜ?」
グダの言葉に嘘はなく、大魔王ハルマの株は上がっていた。冷静に考えると、酷い内容の宣言だったのだが、それだけ三皇軍の所業に嫌悪感を抱いているプレイヤーが多かったのである。
それでも、その場の思い付きで、他人を巻き込む可能性があることは、安易に口にしないようにしないといけないと、ハルマは胸に誓うのだった。
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