Ver.5/第12話
「ところで、ハル? ツルハシで気になったんだけど」
「ん?」
「そこのペンギンって、何?」
マカリナの問いに、軽く沈黙の時間が流れる。
トワネ、ユララ、ピインの森の守り神と一緒に寛いでいたので、すぐには気づかれなかったのだ。
大部屋とはいえ、プレイヤー3人とNPCが13人もいる。マークは見た目からして本なので、場所も取らないのだが、他の面々はマリーやエルシアであっても重なって動くことはほとんどない。
もしかしたら、スルーしてもらえるのではなかろうかと、淡い期待をしていたわけだ。
「増え、ました」
そっと視線を外しながら、端的に説明する。
しかし、それだけで、全て伝わった。
「あ……、そう。やっぱり」
問い詰められることもなく、乾いた笑い声がしばらく発せられただけであった。
微妙な空気が流れたちょうどその時、変化が起こる。
「おじゃましまーす。迎えにきました」
ハルマの家に、モヤシがやって来たのだ。
実は、この日、モヤシの村にマカリナとソラマメを案内するのが目的だったのである。ハルマも、村となってからは足を運んでいなかったので、楽しみにしていた。何しろ、自分以外に村を所有しているのは、知っている限りモヤシしかいないのだ。
「じゃ、じゃあ。行こうか」
気を取り直し、本来の目的のために移動することにした。
「ほお……。ここは、またハルマ君の所とは違った雰囲気だな」
モヤシの所有する村に転移すると、開口一番、ソラマメは感嘆の声を上げた。
「ホントですね。ハルの村は緑豊かな場所だけど、こっちは湖がメインなのね。滝もあるし、マイナスイオン全開って感じ」
むろん、ゲームの中なので、水しぶきが空気中に溶け込むことはないとわかっている。それでも、モヤシの村の作り方が上手いのか、癒しの空間となっていた。
周囲を崖に囲まれ、滝が流れ落ちる。水は村の中央に静かにたたずむ湖へと川でつながっている。湖の周辺には家屋は置かず、居住区は数か所にわけてポツリポツリを配置されていた。スタンプの村とは違い、家屋の造りは統一され、全て木造平屋のようである。そのため、街路樹などに溶け込み、景観の一部として馴染んで見えた。
「ようこそ、レイクサイドの村へ。まだ、できたばかりで何もないですけど、ゆっくりしていってください」
少し照れ臭そうに、モヤシは自分の村を紹介した。気恥ずかしそうではあるが、自慢の村を見てもらえて嬉しそうでもある。
「なるほど……。話を聞けて良かったよ」
レイクサイドを案内してもらいながら、モヤシに話を聞いていたソラマメは、自分の勘違いに気づいていた。おそらく、ハルマからの情報だけでは、間違った認識のまま話を進めてしまっていただろう。
「ハルマ君。村は、簡単には増えないぞ、こりゃ」
抗議にも近い視線を向けられ、戸惑うも、隣のマカリナもソラマメ同様の感想であったらしい。
「え?」
「はあ……。あたしも迂闊だったわ。ハルを普通のプレイヤーと一緒に考えるのが、そもそも間違ってた。良かった。ソラマメさん以外にまだ話してなくて」
「え?」
「大工道具を手に入れるのも、〈大工の心得〉を取得するのも、たぶん、そんなに難しくない。でもね。その後が大変じゃないか。まず、村にできる場所を見つけないといけない。俺達は、幸いにも候補地を知ってるからいいけど、スタンプの村と、レイクサイドの村以外の場所に作りたいって人も、当然いるだろ? 俺だって、できればそうしたい。その上で、開拓を進めないといけないんだ。しかも、家を造るのもタダじゃない。村の条件を整えるだけでも、生産職以外のプレイヤーには、かなりハードルが高いんじゃないか? 採取するプレイヤーのほとんどは、金策でやってるから、ストックはほとんどないだろうからね」
「住人は、フレンドさんを誘えばある程度人数を稼げるだろうけど、下手したらトラブルのタネになるからね。よっぽど仲の良い人か、信頼できる人じゃないと誘えないわよ。正直、ハルの村じゃなかったら、あれだけの人数のプレイヤーは集まらないと思うよ?」
ソラマメとマカリナの指摘に、ハルマも唖然となる。
確かに、最初期の住人NPCがぽんぽん見つかったのも、運良くトワネを仲間にした後だったために、森の守り神補正が入ったのは予想している。そうでなければ、住人をそろえるのに、もっと時間がかかったはずだ。
家を造るのも、材料を自分で調達できる下地があったからこそ、楽しさこそ感じても、難しさは感じなかった。
そして、他のプレイヤーともっとも異なるのが、ハルマが不落魔王であり、大魔王であるという点だ。
これだけの有名プレイヤーを相手に、トラブルを起こそうという相手は、そうそういるものではない。むろん、現在スタンプの村に家を持っている人物の中に、トラブルメイカーとなる者はいないのだが、それは運が良かっただけである。
ハルマは、自分がいかに恵まれた環境で村を開拓できていたのか、改めて、いや、初めて自覚していた。
一方、ソラマメは、不安要素と手間暇を考慮して、街中の拠点を高額で購入するか、自分で村を開拓するかを選択するべきだという結論になっていた。
ハルマの話だけで、村づくりが楽しいだけのコンテンツであると認識してしまうのは、無理もない。何しろ、ハルマはほとんど苦労していないのだから。
「でも、面白いシステムなのは間違いないからね。俺も、張り切って自分の村を作ってやるさ」
ソラマメは、様々なことを天秤にかけ、それでも自分の村を造ることを選択したらしい。この辺は、やはり、根っからの生産職気質であるといえよう。
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