Ver.5/第6話

 仄かな光に照らされた狭い通路を進んでいくと、出口が近づいてきた。

「この辺だよな?」

 目的のペンギンまで、もう少しの位置だったはずだ。

 つまりは、あのペンギンが話題になっていない原因も、暗闇のせいであることが判明した。

 正直、ハルマも〈発見〉で反応がなければ、見逃していただろうから、見えてない人にとっては言わずもがな、である。

 とはいえ、プレイヤーの探求心を舐めてはいけない。どんな場所であっても、足を踏み入れていない場所などないと断言できるくらいに隅々まで探し回っているはずなのだ。

 それなのに、ペンギンのことなど聞いたことがない。

 どういうことだろうか? と考えながら、トロッコからペンギンを見つけた辺りに到達したが、何も見つけられない。

「あれ?」

 ペンギンがいたはずの通路がない。スキルに反応があるのに、だ。

 どこかに別ルートがあるのかとも思ったが、出口が近いこともあり分岐点もないので、考えにくい。それに、別のルートでしかたどり着けないのなら、トロッコに乗っていて見えたのも変な話である。そうやって〈発見〉のスキルを頼りにあちこち調べてようやく見つけた。

「え? 壁の奥?」

 びっくりしたが、よくよく観察してみると、壁の下の方に人が通れないサイズの小さな穴が空いていることに気が付いた。

「そういうことか……。トロッコの視点からじゃないと、奥まで見えないんだな」

 おそらく、ここまで足を運んだプレイヤーも多いのだろうが、この穴に気づけた者がいなかったのだろう。

 武器で壁を突いてみると、変化が起こる。そのまま崩せそうだったが、ツルハシを使ってみたところ、数回で人が通れる大きさの穴に広げることができた。


「ハルマ! ペンギンだよ!」

「ペンギンだねえ」

 目的地に到着すると、マリーは興奮したように声を上げた。

 ハルマも、しみじみと答える。やはり、どう見てもペンギンである。

 そのペンギンは、工事用の黄色いヘルメットのようなものをかぶり、ツルハシを使って必死に岩壁を穿とうと奮闘している。

 しかし、ハルマの〈採掘〉にも〈発見〉にも、採掘ポイントのマークは反応しない。その上、安易に手伝って良いものか、判断ができない。

「ん?」

 こちらを気にすることもなく作業に没頭するペンギンを、どうにか協力してやれないかと思っていると、とある物に目が行った。

「おいおい。そのツルハシ、ボロボロじゃないか」

 鈍い音を発するだけで、遅々として作業が進まない原因に気づく。

 ハルマがツルハシのレシピを教わった時に、ドワーフの職人が話していたことを思い出す。

『〈細工〉で魔力通さないと、重くて長時間使えない上に、強度も落ちちまう。何より、鉱山には霊力が宿っていることも多いから、ルーン文字で魔力を通さないと使い物にならんのだ』

 ペンギンの使っているツルハシの先端が欠けているだけでも使い古されているのが見て取れたというのに、ルーン文字が見当たらないのだ。使い古されて消えてしまったのか、最初から施されていないのか、どちらにしろ魔力が通らずに弾かれてしまっているのだろう。

「おーい。こっちを使ってみなよ」

 ペンギンの隣に立ち、愛用のツルハシを差し出しながら声をかける。

 愛用ではあるが、自分で作れるので惜しくもない。

 ハルマの呼びかけに、ペンギンはピタリと動きを止めると、視線をツルハシに向けてきた。

 そうして、自分のツルハシとハルマのツルハシを交互に観察し、「いいの?」という視線をハルマに向けてきた。

「いいよ」

 ほら、と、再度ツルハシを差し出す。

 ペンギンは少し戸惑いながらもツルハシを受け取ると、そのまま作業に戻る。

 新たに手にしたツルハシを振り上げ、岩壁に打ち付ける。

「!?」

 ペンギンの声なき声が聞こえた気がした。

 今まで弾かれるような鈍い音しか発していなかったツルハシが、ザクッと突き刺さったからである。

 それからのペンギンの勢いはすごかった。

 見ている間に、あれよあれよと掘り進めていったのだ。

 何をそんなに必死になっているのか気になり、後をついていくと、しばらく掘り進んだ所で、岩壁ではない石造りの壁に突き当たったが、ペンギンは気にすることもなく、ツルハシで打ち砕いてしまったのである。

「こいつは……」

 掘り進んだ先には、大きな空間が広がり、その先に小さな祠があるのが見えた。

「どうやら、あの祠に用があるみたいだな」

 お目当てのものを見つけたからか、ペンギンは一目散に駆け出したのだ。


 ……が。


「そうなるかあ……」

 ペンギンの行く手を阻むように、何か巨大な影が地中から飛び出してきたのである。一瞬、巨大な柱かとも思ったが、それは、ウネウネと動き出した。更によく観察してみると、先端に穴が空き、わしゃわしゃと開閉している。

「ワームってやつだな、ありゃ……。どう考えても、戦うのは俺達だよな」

 乗り掛かった船である。

 ハルマは、覚悟を決めて指示を飛ばす。

「ヤタジャオース、ズキン、ラフ、シャムは突撃。動きを止めてくれ! ニノエとハンゾウはそのバックアップ! ピインは回復に専念。トワネはデバフと状態異常を一通り試してくれ」

 サイズ的にはノーマルレイドクラスの大物だ。簡単には勝てないだろうと気を引き締める。

 しかし、事態は思わぬ展開を見せた。

「あん?」

 魔導書マークが〈パラパラ〉によるランダム召喚を行った直後、目の前のワームに劣らぬサイズのモンスターが出現したのだ。

「おおお! 初手でギガントドラゴン引くとは、ツイてる!」

 アウィスリッドにある、ダークエルフの集落を襲った風喰いと同ランクのモンスター。しかも、物理攻撃主体の肉体派ドラゴンのため、羽は小さいが、ちょっとした小高い丘ほどもある巨体である。

 ギガントドラゴンの前に立つと、マカリナのテイムモンスターであるマカロンも小さく見えてしまうかもしれない。

 当然、引き当てる確率は低く、3%もない。

 そのまま大型モンスター同士が戦いを始め、それに他の仲間が加わる形になってしまったので、さほど苦労することなく勝利することができたのだった。

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