第1章 出会いは必然?
Ver.5/第1話
「「ごめんなさい」」
腕組みをして仁王立ちする人物の前で、ハルマとマカリナは土下座していた。
つい先ほどまで、闘技場で三皇を自称する集団と戦っていたのだが、これは前もって予定されていたものではない。
本来であれば、先約があったのだ。
魔界の仮オープンが終わり、新エリアに進んだハルマとマカリナだったが、そこで採取した新素材の使い道に悩んでおり、他の生産職プレイヤーに協力してもらおうと考えていた。
ハルマにそんな知り合いはいないため、マカリナにソラマメという人物を紹介してもらうことになっていたのだ。
そして、それを、すっぽかしてしまっていた。
今、土下座して頭を下げている相手が、ソラマメである。
「ところで、何であたしまで土下座してるの?」
鍛冶ギルドの待ち合わせ場所に急いで向かい、ハルマに「あの人」と、告げた直後のことだった。
ハルマは、ソラマメの前にダイビング&ローリング土下座を決めたのである。
それはそれは見事な土下座だった。
その勢いに乗せられてしまい、マカリナもピタリとハルマの隣に並んで土下座してしまっていたのだ。
「俺に訊かれても……。リナは、ちゃんと連絡してくれてたんだろ?」
ハルマとしては、自分の我がままで待たせてしまっていることを自覚していたので、真っ先に謝っただけである。
「お前らなあ。超有名プレイヤーなんだから、こんな目立つところで土下座なんかするなよ」
腕を組んで仁王立ちしたまま、しかし、表情は引き攣って天を仰いでいるソラマメに呆れられる。
その声からは怒気は感じられないどころか、困惑だけが漂う。
正直、ソラマメも、突然ハルマを紹介したいとマカリナから連絡があった時には、内心ヒヤヒヤしていたのだ。
マカリナが顔を隠して〈魔王イベント〉に出ていたことも知っている。そんな人物が、大魔王のハルマを紹介したいと言ってきたのだ。
不落魔王と呼ばれていた頃からハルマは有名である。
何か無理難題を押し付けられるのではないかと、待っている間も気が気ではなかったというのに、当の本人がいきなり土下座してきたのだ。
理解が追いつかない。
ただ、ハルマという人物に好感は持てた。何の実績もない、ただの生産職のエンジョイプレイヤーに対しても、対等に接するどころか、真っ先に自分の非を認める姿勢に。
ちょっと、やりすぎな気もしたが、そんなところも含めて、知らぬ間に笑みが浮かんでいた。
3人が意気投合するのに、時間はかからなかった。
「へえぇ。職人説は耳にしたことはあるが、眉唾物だと思ってたわ。本当に生産職メインだったのか……」
鍛冶ギルドの中では回りの目があって落ち着かないという理由から、3人は近くの宿屋に入っていた。
部屋を借りることで、他のプレイヤーからは隔離された空間に移動できるからである。ハルマと違い、居住地を持たないプレイヤーだと、こうやって打ち合わせや相談をするのに使用されることは多い。
「ソラマメさんが思ってる以上にガチよ。全職人でランクが熟練の上に、〈錬金〉と〈調合〉は達人にまで上がってるんだもの」
「え!? そこまで……? 俺でも〈鍛冶〉と〈錬金〉が達人に上がってる以外は、そこそこだぞ?〈細工〉と〈魔加術〉にいたっては、駆け出しレベルで止まってるほどなんだが……」
「あたしも似たようなもの……。っていうか、ソラマメさん、〈錬金〉に続いて、〈鍛冶〉が達人に上がったんですね! おめでとうございます!」
「ハハハ……。ありがとう。でも、生産職しかしていないのに、ハルマ君より上なのが〈鍛冶〉だけっていうのは、ちょっと悔しいな」
「いやいや。ハルが、ちょっと、いや、かなりおかしいだけですから。ソラマメさんも、ハルの拠点見たら、絶句しますよ」
「ん? そういえば、ハルマ君をギルドで見たことないと思ったら、拠点持ちだったんだね。それは、見てみたいな」
ここまで話が進んだところで、マカリナの表情が変わる。
うっかり、ハルマが拠点持ちであることを話してしまったからだ。
自然な流れだったため、拠点持ちどころか、村持ちであることを失念してしまっていたのである。
視線だけで、ハルマに謝罪をするが、ハルマも微苦笑で応えるだけだ。
「じゃあ。せっかくなので、行きましょうか。協力してもらうのに、必要でしょうから」
ハルマも、短い時間だったが、ソラマメを信用する気になっていた。そのため、隠す必要もないと判断したのだ。
加えて、そろそろ〈大工の心得〉を取得するプレイヤーが増えてもいいのではないかと思っていたこともあり、ソラマメの反応を見てみたかったというのもあったのだ。
こうして、3人は、入ったばかりの宿屋を後にしたのだった。
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