Ver.4/第45話
「マカロン、全力で抑え込んで!」
ハルマが諦めモードに突入した直後だった。
背後から威圧感が押し寄せたかと思ったら、クレブオアラクネとハルマの間に、巨大な影が滑り込んだ。
「はい?」
思考が一瞬停止したのは、ハルマだけではなかった。
何しろ、そこに現れたのは、金属製のゴーレム。いや、もっと、的確に表現するならば、巨大人型ロボットだったからである。
ガションガションとマシン系特有の移動音を上げながら、ゴーレムが立てる重厚な足音も響かせる。ヒュージシャドースライムのシャムよりも大きな体を持つそれは、体長5~6メートルの巨体である。
なんじゃ、こりゃ? と、ポカンとしている間に、巨大人型ロボットのマカロンは、クレブオアラクネと取っ組み合いの戦いを始めてしまった。
そこで展開されているのは、規模こそ小さいものの、もはや戦隊ヒーローが操る巨大ロボットと怪獣の戦いである。
これもマカリナの召喚したモンスターなのかと思ったが、指示に従っている段階で別物であることは明白だ。
近くにいたチップも、マカリナを問い詰めようと視線を向けていたが、当の本人は、何やらスキルの発動中であったため、邪魔をするわけにもいかなかった。
何より、司令塔である。
「何だかわからんが、今のうちに距離を取って、立て直しだ!」
ハルマとシュンは、突如現れたマカロンの後ろに下がり、モカとユキチもチップ達の側まで回避してくると、準備が整ったのか、マカリナも行動に移った。
「お待たせ! 初めて使うから時間かかっちゃった! アヤネちゃん、バフが消えちゃうけど、ごめんね!」
基本、彼女は生産職である。
こういうボス戦では、〈DCG〉に頼り切りであるため、他のスキルは滅多に使わない。
たどたどしい動きで唱えられたスキルによって、戦闘エリア全体が浄化されるようなエフェクトで包まれた。
「おろ? レベルダウンもデバフも消えた」
これも、真っ先に気づいたのはユキチであった。
「マカロン! そのまま抑え込んじゃって!」
何が起こったのか困惑が広がる中、マカリナだけはどこか気恥ずかしそうに指示を飛ばす。
これに、ハッとなったのはチップだった。
「ハルマは一旦下がって、攻撃にシフトチェンジ! シュンはマカロンのサポート頼む! タゲコントロールしてくれ! モカさんは、いつでも突撃できるようにしておいてください! 残りHP25%で行動に変化なかったら、一気に攻めます!」
その後、戦いは激しさを増したが、特殊攻撃のパターンは変化なく、トゲの発射と霧によるレベルダウンとデバフを繰り返すばかりで、対処できないほどではなかった。途中、何度かトゲの処理に追いつかず、マカリナの懸念通り、トゲの正体が卵で、孵化すると中から3体の小さな蜘蛛型モンスターが出てきたが、魔界で戦ったアムドアラクネよりは数も少なく、こちらも何とか対処することができた。
最終的には、徐々に数を増やすマカリナの召喚モンスターに加え、温存していたモカの火力でもって、何とか討伐に成功したのであった。
「「「「「「で? このロボットは何?」」」」」」
戦闘が終わり、手持無沙汰になったのか、マカロンは勝利のポーズを取りながら全員を見下ろしている。
「あたしの……テイムモンスター……です」
一斉に向けられた視線から顔を背けながら、マカリナは気まずそうに返答した。
「ひゃー。こんなテイムモンスターいるんだねぇ」
ユキチも、薄々わかってはいたが、実際に正体が判明すると目を丸くして驚いて見せる。そして、そのままマカロンをじっくり観察し始める。
「テイムモンスター、あんまり育ってないって言ってなかった?」
道中、聞いたばかりであったため、一応、訊いてみた。
「いや、だって。こんな目立つ子、連れて歩けないじゃない。ハルでビックリドッキリに慣れてる人達で、この反応なんだよ? はあ……。まさか、タロットカード選ぶ時に、2枚同時に選べるとか、思わないじゃない……」
ハルマの問いかけに、観念したみたいにマカリナが白状した直後、再び視線が集まった。
ただし、視線の向かう先は、マカリナではない。しかも、驚き半分、呆れ半分といったところだろうか。
視線の集まる先には、表情を引きつらせている男がいた。
「ふたりとも、ホントに似た者同士なんだねえ」
アヤネが代表して告げていた。
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