Ver.4/第43話

「じゃあ、まずハルマが盾役でタゲを確保。その間に、リナが戦力を整える。基本は、こんなところだな」

 目的地に到着し、チップが全員を集めて作戦を伝える。

「おい。確か、チップが戦いたいからって、出かけたんじゃなかったか? チップの出番、ないじゃないか」

「うむ! 上手くいけば、そういうことになるな!」

 ハルマの不満を耳にし、チップは両手を腰に当て、グイと胸を張る。

「ちょ……」

「そういうわけで、今回、オレは、テスタプラスさんを目指して司令塔に徹しようと思う」

 チップの開き直りに近い宣言は、却って清々しく、ハルマ以外に受け入れられた。結果、ハルマ以外から不満が出ることもなく、事は進む。

「チップちゃん。うちは何したら良い?」

「モカさんは、序盤は様子見ですかね。ハルマが盾役やってるとダメージ与えられないから、後方から遠距離攻撃主体で削っていきます。けど、それだと、タゲのコントロールが難しくなるから、シュンにハルマのサポートをやってもらいます。それでも、後衛にタゲが向かってきたら、オレが壁になるんで、モカさんに押し返すのを手伝って欲しいです」

「ふむふむ、なるほど。了解」

「そういうわけなんで、ハルマ。お前の仲間も、ガンガンいこうぜって感じじゃなくて、バッチリがんばれって感じで、控え目に頼むぞ。あと、シュンにだけタゲが集まるのもマズいから、ドレインで溜めたダメージはシュンの合図で解放して、役割交代してくれ」

「はあ……、わかったよ」

 ひとり抵抗を続けても無駄なことも、チップの作戦が理に適っていることも理解して、ハルマは戦闘を準備を整える。むろん、パーティ戦闘において、指揮官の優劣が勝敗に大きくかかわることは、身をもって体験しているため、チップに期待しているのも事実だった。


「行くぞ!」

 背後からチップの号令が飛ぶと、一斉に返事が上がる。ハルマも、与えられた役割をまっとうするため動き出す。

 まずは、ハルマがターゲットになって、攻撃を受け止めなければならない。

 その後、後衛から攻撃を与えつつ、シュンによってタゲのコントロールが始まるからだ。

 そんな中、リナは、ひとつの懸念をチップに伝えていた。

「あれ。魔界で戦ったボスのアムドアラクネに似てるんだよねえ。サイズと言い、見た目と言い、重鎧着てるところと言い……」

「え?」

「もしかしたら、中盤から魔物の卵を召喚し始めて、モンスターで埋め尽くされちゃうかも? そうじゃなくても、ギミック発動系のボスじゃないかなあ?」

「ええ!?」

 ハルマに食いついたエリアボス、クレブオアラクネは、魔界で見たアムドアラクネよりも若干小さいサイズだが、姿形はほとんど同じであった。

 思わぬ情報に、チップも動揺するが、今さら作戦は変えられない。しかし、こういう時に、司令塔の技量が問われるのも、事実である。

「方針は変えない! まずは、何が起こるのか確かめてからだ! ハルマも、中盤以降、ガードできない攻撃がくることは覚悟しておいてくれよ!」

 チップは、数瞬迷いを見せたが、すぐに立て直すと、指示を飛ばす。

 クレブオアラクネは、基本的に、よく見るアラクネと同じ、女性の上半身に蜘蛛の下半身という姿である。

 攻撃は、上半身の2本の腕が持つ巨大な斧と、下半身の蜘蛛の肢体によってなされる。事前情報の通り、序盤は脳筋タイプの物理攻撃によるゴリ押し戦術。

 しかし、ヘカトンケイルの攻撃に比べると生ぬるさすら感じる。そもそも、ただの物理攻撃では、ハルマのガード率100%を突破できるはずもない。

 そのため、アヤネを中心に後衛からの攻撃が開始されるのと同時に、マカリナの〈DCG〉によって、徐々にモンスターが召喚され始めた。

「あたしの召喚モンスターは、勝手に動くから、タゲのコントロールは難しいかも! でも、使い捨てでも何の問題もないから、むしろ、こいつらがタゲられたら囮になるから、余裕出来るはず!」

 事前に伝えてはいるが、実際に共闘するのは初めてのメンバーも多い。マカリナは、改めて自分のスキルの特徴を共有させる。

 実は、このタゲがプレイヤーの誰にも向かっていない状態、というのは、非常にありがたいタイミングなのである。そのため、その状況を作り出しやすい彼女のスキルは、エンシェントヒュドラの時にも大いに活躍したのだ。

 こうして、序盤は、ハルマが盾となり、それを回避盾のシュンがサポートするというやり方で、順調に進んでいく。

「さあ、こっからが勝負だ!」

 クレブオアラクネの残りHPが50%を切ったところで、明らかに変化が起こり、佳境へと突入することになる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る