Ver.4/第31話

 生産職として新しい可能性を感じつつ、魔界での活動も大詰めが見えてきた時期だった。

 5月はまだ中旬なのだが、タイミングの悪いことにテストの時期と重なってしまうからだ。それでも、いつもであればログインを控える時期を越えて遊んでいることも自覚している。

 本来であれば、テスト勉強に時間をかけ始める時期なのだが、更にタイミングの悪いことに、マカリナ達も時を同じくしてテスト期間に入る。そうなると、生産職を担うふたりがそろっていなくなってしまうことになる。

 そのため、可能な限りNPCを強化するために活動していたのだ。

 マカリナとふたりで分担し、やれるだけのことをやって一時撤退となった。

 後ろ髪を引かれる思いもあったが、この短期集中の職人作業によって、〈錬金〉に続いて〈調合〉も熟練から達人へとランクアップし、〈統合〉に続いて〈凝縮〉という、同じようなスキルを取得していた。


「終わったー」

 チップ達と一緒に、テストを乗り越えたことを祝い、反省会はほどほどに家に帰ると、早速ログインする。

 平日の夕方ということもあり、魔界組はまだ誰もインしていないようである。

 10日ほど勉強の合間の息抜き程度しかインしていなかったため、まずは魔界の様子を見に行くことにした。

「やっぱり、俺もリナも不在だったから、先には進んでないんだな。俺達のことは気にしないでいいとは言っておいたけど……」

 初めて拠点の拡張を行った8号砦からは、先に進んだのだが、一段とモンスターの強さも上がったため、再び地道な強化の時間となっていた。

 それでも、テスト勉強のために離れる前には、9号砦の拡張もマックスまで進め、やれるだけの強化はやっておいた。

 その際、更に500万ゴールドを支払ったことに、マカリナだけでなく、他の全員からも唖然とされたのも、すでに懐かしい感覚だ。

 たまに息抜きのタイミングで連絡を取ることもあったが、動画配信組は、自分達の配信ペースもあるため、なかなか足並みをそろえることは難しく、テスタプラス達も8人そろってこそのパーティであるため、1日の活動時間は限られている。

 結局、モカとネマキ達で防衛しながら素材を集めては拠点の強化に励んでいることが多かったようである。

 それでも、最後に会った時には、ハルマ達以外で集まれる時間ができそうだと話していたので、何か進展があったかもしれない。

 最前線の拠点、9号砦を見て回り、あちこち破損が目立つところに手を加え補強する。こういう作業はNPCに任せた方が手っ取り早いのだが、自分でやった方が強度は上がる。しかも、こうやって、自分でやることで、愛着が増すのだから、不思議なものだ。

 後数日で仮オープンの魔界も閉じてしまうことを考えると、妙な寂しさも感じていた。

「あー。いたいた。おっつー」

 拠点を一通り見て回り、城壁に上がって魔界の景色を味わうように眺めていると、下の方からマカリナの声が聞こえてきた。

「おー。久しぶり。お互い、テストのことは言いっこなしってことで」

「ハハハ……。賛成。もうすぐ、モカさん達も来るって。あたしらがいない間、けっこう大変だったみたいだよ」

「え? そうなの?」

「うん。次の砦に、久しぶりにイベントボスがいるのを見つけて挑戦してみたけど、コテンパンにやられたみたい」

「い!? あの人達が?」

「そ……。あの人達が」

 ハルマの驚きに返すように、マカリナも表情を歪める。

「そりゃ……。戦いたくないな……」

 今まで眺めていた魔界の風景が、途端に禍々しく感じられるようになっていた。

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