Ver.4/第13話
手持ちのアイテムを、ただ使っただけで、思わぬ騒動になってしまったが、これで次の計画に進めることになった。
しかし、すぐに、イベントボスが待つ、次の拠点候補地に向かう、ということにはならなかった。
イベントボスの対策のために、やっておくことがあったからである。
一度魔界から出て、ズキンやヤタジャオース達を村に待機させると、再び魔界に戻り、拠点に転移する。
今回、連れて行くのはマリー、エルシアの幽霊コンビと、ラフ、トワネ、シャムだけである。
当初の計画の通り、ひとりで向かうことになっていたら、だいぶ心細い数であるが、これ以上は望めない護衛が一緒に行ってくれることになったので、何の心配もなかった。
「ラフちゃんとトワネちゃんも仕舞っちゃうの?」
「目的地に着くまで、戦闘はモカさん達に任せて大丈夫ですからね。現地に着いたら、シャムも帰還させます。いざとなったら、皆呼び出しますけど」
チョコット達の情報を元に作戦を考えると、ハルマ単独で戦わざるを得ないという結論にたどり着いてしまう。
フォリートレントの時は、ハルマにターゲットが固定されたおかげで、他の仲間に攻撃が向かわなかったが、今回も同じとは限らない。
で、あるならば、最初からハルマにだけ攻撃が集中する状況を作るべきだろうと考えたのである。
この辺は、テスタプラス達、周囲の面々も理解してくれた。
むしろ、運営の思惑を考えると、単独で戦うことを仕向けている節があると助言してきたほどだ。
「あいつですぜ」
ニコランダとチョコットの先導で、目的地に到着すると、早速イベントボスが待つ場所に向かうことになった。
とはいえ、今までのイベントで何度も見たことのある砦であったので、内部の様子は珍しいものではなかった。多少、造りに差はあるが、把握するのに時間もかからない。
案内されたのは、砦の中心地で、大きな広場になっているスペースだ。
そこに、数え切れない腕を持つ巨人族モンスターが鎮座している。
「でっか……」
あぐらをかいて座っているというのに、すでにトロールよりも大きい。サイズだけなら、レイドボス級であることは確実だ。
「ヘカトンケイルってやつですぜ。気をつけで下さいよ」
相手の強さを人一倍知っているニコランダが、心配半分、好奇心半分で送り出す。
彼は、VITとSTRの高さ、それによって高い防御力の防具も身に着けている。多くの強豪プレイヤーが、メイン火力としてパーティを支えるのに対し、彼は最前線で盾となって味方を支えることを選択しているのだ。
それ故に、配信でも彼の漢気に惹かれる者が多い。
しかも、ただ防御に長けているだけでなく、鎖でつながれた鉄球を振り回すタイプのモーニングスターによる破壊力抜群の攻撃も魅力だった。
そんな豪快さが売りのニコランダをしても、ヘカトンケイルの攻撃は30秒と耐えられなかったのだ。
ハルマがどのように戦うのか、チョコットではないが、楽しみにしていた。そして、〈魔王イベント〉で見せた鉄壁のガードの裏に、どんな秘密が隠されているのか、興味津々だったのである。
ところが……。
「え? 準備しないでいいんですかい?」
ニコランダだけでなく、その場の全員が心配になって声をかけていた。
モカですら、ハルマがガード率100%の持ち主であることは知らされていないのである。
隠していた顔を、公衆の面前でさらしてしまうようなうっかり屋の一面を持つ男だ。回りに仲間のNPCもいない状況で、下準備もせずにどうするつもりなのかと、不安になるのも仕方がない。
「ん? 大丈夫だと思いますよ?」
ハルマはただ2本の片手剣を握り締めただけの、シンプルな装備だけでアイテムもスキルも使わずに戦闘エリアに足を踏み入れてしまう。
そもそも、普通のプレイヤーにとって、二刀流はデメリットこそあれ、メリットになることはないはずなのだ。
この段階になっても、戦闘中でなければ発動できないスキルなのかと観戦していたが、ヘカトンケイルが立ち上がり、猛々しく攻撃が開始されても何もする様子がないハルマに、いよいよ期待と不安が向けられる。
……の、だが。
「そうなるのか……」
当然、どれだけの回転数の攻撃であっても、ただの物理攻撃であれば、ハルマにダメージを与えることはできない。
1度に複数の腕から繰り出される攻撃も、全て瞬時にガードしてしまうのだ。
システム上、ガードにATKもDEFも関係ない。ガードというのは、ボーナスのような特殊な行為であるため、本来、たまにガードできればラッキーという扱いである。なので、ガードという行為によって、吹き飛ばされるであるとか、体勢が崩される、という現象が起こらないのである。
激しい攻撃が続く中、ハルマは不動のまま全ての攻撃をガードする。
「おい……。ハルマ君、何かスキル使ったんですかい?」
同じ動画配信者として親交のあるチョコットに尋ねる間も、視線はハルマに固定されたままだった。
「ニコさん、すみません。オレも何が起こってるのか、ちょっとわからないです。さすがに何かカラクリがあると思いますけど、見破れそうにないです」
「案外、単純にガード率が100%なだけなんじゃない?」
困惑するふたりの動画配信者に、モカは核心をつく。ハルマとは付き合いが長いため、前にそんなことを耳にしたような気もするのだが、基本、気にしない性格のため、正確には覚えていないようである。
「いやいやいや……。さすがに、100%は無理ですよ。
こうして、ハルマの秘密は、今回も勝手に守られることになる。
ニコランダでも耐え切れない30秒の壁をあっさり突破し、1分、2分とヘカトンケイルの攻撃は続いたが、止む気配がない。
それどころか、3分が経過しようとしたところで、急にヘカトンケイルが距離を取ったかと思ったら、それまで拳で殴りつけるだけだった攻撃が、どこから取り出したのか、岩を投げつけるという遠距離攻撃に切り替わったではないか。
この変化には、さすがにハルマもヒヤッとさせられたが、ユララと出会った時に、ズキンの兄達と戦った経験から、そのままガード率100%のアシストを信じることにした。
「うお! あれも完璧にガードしてる!」
周囲のどよめきに少し気恥ずかしさを感じながらも、耐え続けること数分。ついにその時がきた。
「おおお!! ついに動きが止まった!」
戦闘開始から5分。溜まりに溜まったダメージドレインが一気に解放されると、一瞬にして決着がつけられたのだった。
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