Ver.4/第12話

「え!? このMPハイポーション、貴重なものじゃない! こんなところで使うのは、もったいないわよ」

 防衛戦の最序盤でMPを使い果たしたネマキに対し、ハルマが手持ちのMPハイポーションを使うと、驚かれてしまう。

「大丈夫ですよ? 作ってるの、俺ですから……。素材さえあれば、いくらでも作れますんで」

 驚かれたことに、ハルマはキョトンとなりながら答える。実際、ハルマにとっては、日用品なのである。魔界に素材は持ち込めなかったが、消費アイテムはいつも通り使えたため、貴重という感覚もない。

「これ……、ハルマ様が作ってたの?」

 ハルマの反応に対して、ネマキは唖然としながら固まってしまう。

 実は、ドレインを使ったMPポーションは、未だにハルマ以外作っている気配がない。それでも、抽出機で使う紙の質が向上しているため、格段に違いが出るほどではなくなっているのだが、一部のプレイヤーにとっては、プレイヤーバザーに出品されるのを待ち望むほどの差があるものだった。

 そして、この些細な差で、大いに恩恵を受けるのが、ネマキのようなMP消費が激しいプレイヤーなのである。

 もちろん、作っているハルマ本人が、そんなことを気にかけているはずはない。

「言ったでしょ? 飛び切り頼りになる生産職だって」

 すでに恩恵を受けているモカが、ニカッと笑みを浮かべ、自分のこと以上に自慢気な表情を作る。

 すると、絶句したまま固まっていたネマキは、突如クワッと目を見開き、ハルマに詰め寄る。

「ちょ、ちょっと! いくら貢げばわたしにも作ってくださるかしら!? それとも、あれ? モカ姉様みたいなバインバインのオッパイ!? おおお、おねーさんも、モカ姉様ほどじゃないけど、それなりのものが付いてるわよ!?」

「突然何言い出すのよ! そこのパジャマ!」

 げんこつで思い切りネマキの頭をぶん殴りながら、コヤが制止に入る。むろん、当てられないことを理解しての行動である。

 しかし、これで助かったと思ったのも束の間だった。

「それで!? 何をしたら、譲ってもらえる? あーし、胸はないから、金品の方が嬉しいんだけど!? 隠してる情報のひとつやふたつなら、公開してもいいわよ!?」

 直後、全方位からギラリと突き刺さる魔法職の視線に気づいたハルマだった。

「あ、あの……。特別なものは必要ないですよ? バザーで出してる値段で、普通に取引してますから……」

 表情を引きつらせ、タジタジしながら答える。

 直後、ギラリとした視線は、更に殺気立ったかと思ったら、全員が口をそろえていた。

「「「「「お願いします!!」」」」」

 もしかしたら、今までもっともハルマが大魔王として敬われた瞬間だったかもしれない。

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