第1章 共闘

Ver.4/第1話

 運営からの連絡は、〈大魔王イベント〉が終わった直後には届けられていた。

「えーと? 明日から、早速行けるのか。期限は5月末まで、か。1か月ちょっとあるとは、けっこう長いな。ああ、でも、オープニングムービー用の素材は早めに欲しいから、ゴールデンウィーク中に1度は行かなきゃダメなのね。まあ、たぶん、皆、明日か明後日には行くよな?」

 使い魔に届けられた運営からの手紙に目を通すが、魔界に入るための手順などが記されているだけで、魔界が、どういうエリアなのかの説明はなかった。

 行ってみてのお楽しみということだろう。

「あの時の動画以上の情報がないとか、わかってるじゃないか」

 必要以上に情報を公開されてしまっては、興がさめるというものだ。

 大魔王になった興奮よりも、すっかり気持ちは魔界に移っていた。そのせいで、この日は、すぐに寝付けなかったほどである。


 翌日、学校から戻ると、解禁時間を前にして、待ち切れずに指定された場所に向かっていた。

 早めの夕食も取り、準備万端で向かったのは、〈大魔王決定戦〉が行われたコロシアムの闘技場の上だった。

 本来は、イベント用のサーバーなのだが、今回は、特別にここを出入り口として使うらしい。

「ははは……。待ち切れなかったのは、俺だけじゃなかったか」

 メニューを操作して、転移を済ませたところで、目に入ったのは、今や遅しと待ち構えている複数のプレイヤーだった。

「お! ハルも来たんだね。やっほー。昨日は、おめでとうさん!」

 最初にこちらに気づいたのは、数少ない顔見知りだった。

「リナも来てたのか……。ありがとう。ってか、昨日は驚いたよ。まさか、本当に、あのマカリナさんだったとはね」

 昨日、準決勝で戦ったばかりの相手を前にして、ジト目を向ける。

 つい、ひと月半前に出会ったばかりであり、フレンドになったキッカケも、職人としてツルハシを必要としていた者同士だったからである。

 ツルハシを所有しているプレイヤーも、このふたり以外におらず、実は、昨日の準決勝でマカリナが取り出して掲げて見せたことも、生産職を中心に、ちょっとした話題になっているのだ。

「いやー、はっはっは。それは、お互い様でしょ? むしろ、こっちの方がびっくりだよ。あの不落魔王が、ガチ職人だとは、思わないじゃない? イースターの時の写真がなかったら、表彰式で顔を出すまで気づかなかったわよ」

「おふぅ。それは、言わないでくれえ。あれは、俺のうっかりミスなんだから。顔出しするつもりなんか、なかったんだから……」

「え!? やっぱり、そうなの? それは……、お気の毒様。でも、どうせ、大魔王として、この1年、Greenhorn-onlineの顔になるんだから、良かったんじゃない?」

「じゃあ、リナもオープニングムービーに出るんだから、顔出しするんだね」

「するわけないじゃない!」

 再びジト目を向けた途端、マカリナはスイッチングで魔王戦の時に使っているコスチュームに着替えてしまう。

「リナ。もう着替えちゃったの? って、もしかして、そちらはハルマさん!?」

 久しぶりに会ったというのに、どうもマカリナに対しては、同じ生産職ということもあって親近感があるせいか、緊張感なく話せてしまう。

 軽口を叩いていると、マカリナのパーティメンバーのひとりが寄ってきた。

「えーと、はじめまして、っていうのも、変ですかね? 昨日、戦ってるし」

「キャー!? 本物!? そりゃ、ここにいるんだから、本物か。それにしても、本当にリナとフレンドだったんですね。あたしは、リナのリアルフレンドでラキアっていいます。あの、あたしも、フレンドお願いしてもいいですかね?」

「はあ……。構いませんよ? その代わり、敬語は止めません? リナのリアルフレンドって、ことは、同い年ですよね?」

「了解! じゃあ、あたしもラキで。ハルマさん、ハルさん、ハル君?」

「ははは……。じゃあ、リナと一緒で、ハルでどう? 俺もラキって呼ばせてもらうから」

「オッケー! ひゃー。何だか、一気に有名人の仲間入りって気持ち!」

「いやいや。とっくに有名人でしょ?」

 なんだか、妙にテンションの高いラキアに対し、微苦笑を浮かべてしまう。

 こうして、ラキアとフレンド登録していると、別の人物が話しかけてきた。

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