Ver.3/第69話
最後にマカリナが登場し、準々決勝の組合せが決まった。
第1試合 モカVSテスタプラス
第2試合 ニコランダVSネマキ
第3試合 チョコットVSハルマ
第4試合 ナイショVSマカリナ
この後の組合せは、第1試合の勝者VS第2試合の勝者、第3試合の勝者VS第4試合の勝者となる。
決まってみれば、ナイショ、チョコット、ニコランダの上位3組の動画配信者の他は、第2回〈魔王イベント〉で全勝だった5組という、最強プレイヤー決定戦と呼んでも過言ではない顔ぶれになっていた。
動画配信者の3組も、決して知名度だけで選ばれたわけではない。
それは、テゲテゲ達と違い、辞退を選択しなかったことからも自信を持っていることが窺えた。
だが、準々決勝の話題は、モカとテスタプラスの直接対決に集中していた。
何しろ、サービス開始直後から、片やソロプレイヤー最強、片やパーティプレー最強と謳われ続けてきたのだ。注目度が高くなるのも無理はない。
組合せ抽選が終わったところで、司会進行のクラッチ、プロデューサーの吉多とディレクターの安藤と入れ替わりに、実況と解説を担当する人物が画面に登場した。
実況は、元アナウンサーの男性が担当し、解説には安藤を支えるチーフプランナーの女性がアシスタント的に付いている。
何しろ、これから行われる戦いで使われる魔法やスキルは特殊なものが多い。公表されている一般的なものだけで勝ち上がっている者は、ひとりもいないと断言できるレベルのため、非公式な情報をある程度説明できる人物が必要なのだ。
その点、安藤はうっかり口を滑らせて重要なことを話してしまう危うさがあることが、ファンの中にまで浸透しているため、適任とは言えないのである。
このふたりの声は戦っている当事者達には聞こえないようになっている。ついでにいえば、闘技場の上の魔王同士の会話も拾われないことになっていた。
声優とはまた違った喋りのプロの語りによって、会場のボルテージは引き上げられていく。
そして、実況の紹介に合わせて、先に呼び出されたのはモカひとりだった。相棒のコナは、今回、呼び出していない。
闘技場の端の方に光に包まれ登場すると、いつもの気持ちの良い笑みを浮かべ、観客に両手を振る余裕を見せる。
実際、彼女に緊張感はない。出られる権利があったから出るだけ。そういうスタンスだからだ。
間を空けず、続けてテスタプラスのパーティが呼び出される。
モカと対峙する距離を空け、闘技場の反対側に登場した。
こちらは8人組にテイムモンスターも8体そろった大所帯。盾職2人、魔法職2人、近接物理職3人、中衛職1人を基本に、相手と状況に合わせて陣形を変える。
こちらも、こういった状況には慣れっこになっているのか、にこやかに観客に向かって手を振って挨拶している。
しかし、穏やかな雰囲気も長くは続かない。
決戦の時が、刻一刻と迫っているからだ。空気のない世界の空気感を、実況が言葉に置き換え盛り上げていくと、闘技場の上だけでなく、見守る者にもカウントダウンの表示が現れた。
どんどん数字が減っていく中、賑やかだった客席は不思議と静まり返っていく。
そして、カウントが10まで進んだところで、実況の声だけが響く異様な雰囲気に包まれていた。
『3……2……1……ゼロ! ついに、Greenhorn-online公式、第1回〈大魔王決定戦〉の幕開けです!』
実況の怒号とも呼べる叫びが終わらない内に、モカが先に動き出していた。
ドンッと舞台を砕くのではないかという加速。
モカの戦略はシンプルだ。そもそも、ソロでの戦いなので、やれることは限られている。一番避けなければならないのが、距離を取られて手も足も出ない状況を作られることである。
であるならば、常に手の届く距離に潜り込み、力尽きるまで暴れ回るだけである。後は、どちらが先に力尽きるか? というだけだ。
「来たぞ! キナコ、レッドさん、お願いします!」
テスタプラスも、こうなることは予想していたが、モカの圧倒的なスピードは体験するまで計りかねていた。実際、眼前に迫るモカに、対応は遅れ気味だ。
大楯持ちのタンクふたりに指示を飛ばすが、ふたりがそれぞれのテイムモンスターと壁を作るよりも前に、モカの槍が1体を吹き飛ばしてしまう。
「「嘘でしょ!?」」
声が重なったが、これは相対する者同士で起こった。
一方は、目標を仕留め損なったことに対し、もう一方は、たった一撃で相棒のテイムモンスターを失ったことに対してである。
モカの渾身の一突きは、キナコを貫くかに思えたが、直前に彼女のテイムモンスターが本能的に間に入ったのだ。
それでもモカの槍はキナコに届き、HPを一定値削り取っている。
「あのオッパイ。どんなチート使ってるのよ!?」
いきなりのピンチに、コヤが慌ててキナコを回復する。しかし、蘇生魔法を使える余裕はなさそうだ。
陣形が整うよりも前に接近戦に持ち込まれたことで、盾職と魔法職の距離は近い。距離的には駆け寄ることのできる範囲であるが、蘇生魔法は射程距離が短く詠唱時間は長いため、無防備な状態が続くことになり、敵に狙われやすくなるのだ。また、それを守ろうとすれば更に陣形が崩れてしまうことを理解している。
見捨てる判断を瞬時に下せることが、このパーティの強さを物語っているといえよう。
しかし、一瞬の間隙が生じた。
テスタプラスパーティでさえも、攻めるか守るか判断に迷いが生じたのを見逃さず、モカは次の手を打ってきた。
「〈デュラハン〉!」
代名詞とも言えるスキルを、出し惜しみなく使う。
「マズイ!」
モカは集団の中央に陣取っている。つまり、パーティを分断できる位置ということだ。
その時、真っ先に動いたのは前衛を担うひとりのプレイヤーだった。
両手剣を振り上げ、最大火力を出せるスキルを発動させながらモカに向かって突っ込んでいったのである。
「おりゃああああああ!」
しかし、わずかに遅かった。
モカの姿は黒衣をまとい、黒馬の上にある。
首は消え、代わりに3人称視点へと切り替わることで、戦闘エリア全体を俯瞰で見下ろすことができるようになる。
つまり、相手の動きは丸見え、ということだ。
決死の覚悟で飛び込んできた相手をひょいと軽々躱し、逆に強力な一撃を叩き込み、ついにひとりを沈めることに成功したのだった。
……が。
「あちゃー。さすがだね」
消えゆく男の表情は、最後に目にした光景に満足しているものだった。
自分が囮となって稼いだ時間が無駄ではなかったことが、キレイに整えられた味方の陣形を見て確認できたからだった。
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