第7章 大魔王誕生

Ver.3/第68話

「さあ! ついに決まります! 初代大魔王が! 皆さん、見届ける準備は、できていますか!? お久しぶりです。というか、この姿だと、はじめまして! という感覚ですかね? 本日、司会進行を務めさせていただきます声優のクラッチです」

 いつものGreenhorn-onlineチャンネルでの公式放送だが、今回はスタジオからのものではない。ゲーム内でアバターを使ってのものだ。場所は、過去の〈魔王イベント〉でも観戦用に使われたコロシアムである。

 コロシアムの中央の舞台が決戦が行われる場所であり、客席にはプレイヤーが所狭しと押しかけている。

 デジタル観戦であるため、会場は30用意され、舞台上には同じ映像が映し出されている。加えて、ログインせずに外部の配信サイトを使って視聴している者も数多く存在する。

 クラッチと一緒に出てきたのは、当然ながらプロデューサーの吉多とディレクターの安藤である。

 ともにアバター姿であるが、運営が用意した特別仕様の体だ。多くのMMORPGで運営開発のスタッフもプレーすることも多いが、このふたりも仕事の合間を縫ってログインしていることは知られている。

 そのため、ハルマとはまた違った理由から、通常のプレーに支障が出ないように、今回はいつも使っているアバターの体とは、別のアバターを用意し、データだけ移し替えたコピーキャラを使っているのだ。

 クラッチの進行によって、吉多、安藤と第1回、第2回の〈魔王イベント〉の振り返りに続き、投票結果の確認が行われる。


〈大魔王決定戦 投票順位〉

 1位 ナイショ

 2位 チョコット

 3位 テゲテゲ

 4位 ニコランダ

 5位 モカ

 6位 トッシー

 7位 テスタプラス

 8位 ネマキ

 9位 カオスゼロ

 10位 ハルマ

 11位 マカリナ

 12位 アマイカライ

 ……。


「面白い結果になりましたね。上位4名までが動画配信者で固まりました。どの方の放送も、私、見たことがありますよ」

「そうですねえ。実は、発表されている20位くらいまでは本当に僅差で、最後までどうなるのか、僕たちにも全く予想できなかったんです。でも、思っていた以上に継続して配信を続けて下さった影響は大きかったみたいですね。ただ、中には早い段階で辞退を宣言された方もいますので、どんな8組になるのか、実は、僕もまだ知らないのでドキドキしています」

 この場にいる3名の中で、出場する8組を事前に知らされているのは、司会進行のクラッチだけである。

「そうなんです。エントリーの締め切りが今日の11時でしたから、出場者が決まったのは、本当についさっきなんです。この後、組合せ抽選に移りますが、そこで、初めてわかるんですよね」

 クラッチの視界の中には台本が表示され、その中にはすでにトーナメント出場者の名前が入っている。この後、1組ずつ登場させ抽選を行うため、司会進行として知らなければならないからだ。

 そして、組合せ抽選が始まった。


「最初に登場するのは、この人です! 堂々のプレイヤー投票1位! 変幻自在の戦術家、ナイショ!」

 クラッチの紹介に合わせ、画面中央に星や花火の派手なエフェクトが飛び交った後、浮かび上がったのは6人組のプレイヤーだった。

 その中からひとり、クラッチの元に歩み出る。

 ピエロを思わせる風貌の人物だが、ふざけた恰好に反し、〈魔王イベント〉には2回連続で出場している実力者だ。

 このまま軽いインタビューが行われ、トーナメントの抽選へと進む。

 引いた番号は8番。準々決勝第4試合である。

 こうして、チョコット第3試合、ニコランダ第2試合、モカ第1試合、テスタプラス第1試合、ネマキ第2試合と組合せが決まっていく。

 中でも、モカとテスタプラスが初戦で対戦することが決まり、「事実上の決勝戦いきなりキター!?」などと視聴者サイドは大いに盛り上がっている。

 そして、続いて呼び出されたは……。

「さあ! 残る枠は2組。続いて登場するのは、この人!」

 今までと違う呼び込みに、会場も誰が登場するのか察したのか、唾を飲み込み、待ち構える雰囲気になった。

 登場の演出は同じながら、出てきた人物の姿が確認され、クラッチの紹介によって名前が告げられると、客席から大きな歓声が上がることになった。

「プレイヤー投票10位! 過去2回の〈魔王イベント〉で唯一無敗を誇る不落魔王! ハルマ!」

 本来であれば圏外の順位ながら、この日、もっとも大きな歓声が上がったのは、この瞬間だった。

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