Ver.3/第54話
「いやー、ユキチちゃんに聞いてはいたけど、面白いスタイルだねえ」
スズコ達とサエラは共闘の経験がなかったため、エリアボスに挑む前に連携をすり合わせていた。
そこで話題になったのは、やはりサエラの戦いぶりだ。
初めて見るスズコ達が驚くのも無理はない。
魔法剣士に近いスタイルのプレイヤーは多い。しかし、その戦い方は、武器は武器、魔法は魔法と、独立したものだ。
そこにきて、サエラは、武器に魔法をまとわせ戦う。そのため、武器による攻撃と、魔法による攻撃にラグが生じない強みがあった。
曰く、始めたての頃、野良でパーティを組んだ人物としばらく行動をともにしているうちに魔法職を勧められ、魔法関連のスキルを伸ばすことにしたのだそうだ。しかし、次第にその人物の指示束縛が強くなるにつれて対立するようになり、パーティは解散することになった。
以来、野良でパーティを組むことが怖くなり、ソロで遊ぶようになる。
「で、もともと騎士っぽい戦いに憧れてたから、軌道修正しながら色々試してたら魔法剣のスキル覚えちゃった、ってわけ。だから、どういうロードマップで取得できたのか、全然わからないのよね」
「へえ。そんなスキルの取り方もあるんだねえ。にしても、何だか複雑じゃない? その束縛野郎のおかげでレアスキル取れたと思うと」
「まー、そうなんだけどね。風の噂で耳にしたけど、そいつ、どのパーティに入っても同じようなことするから、最終的にペナルティスキル取っちゃって、ふてくされて引退したっぽいよ」
「うわー。自分の非を認めずに運営に悪態ついてるのが目に浮かぶわ。いるよねー。自分の思い通りにならないと不機嫌になる人」
「でも、それで、よくニャルさん達のお世話しようと思いましたね?」
スズコとサエラのやり取りに、素朴な疑問を挟む。
「あはははは。あの人達は、というか、特にニャルさんだけど、母として子どもを育てた逞しさがあるからかな、物怖じしないでグイグイきたんだよね。ペケのレベル上げでウィンドレッドに寄った時に急に話しかけて来て、キラキラした目で『カッコいいですね! わたしたち始めたばかりで何もわからないので、色々教えてくれませんか!?』って。何だか、あの真っ直ぐさを前にしたら、色々どうでもよく思えてきちゃったのよ」
サエラは、相棒の小人妖精ピクシー、ペケを掌に乗せながら懐かしそうに語る。
「あー、なんかわかる。あたしも主婦のフレンドさんいるけど、そんな感じだったわ。その人は、旦那さんと一緒にプレーしてるんだけどね」
「へー。主婦の人って、案外いるんですね」
「いるいる。けっこう多いよ。ああいう人達って、コミュニティ作るのが上手い人も多いから、主婦サークルみたいな感じになってるところもあるくらい。特に、このゲームって、ペナルティスキルがあるから、ほどよく抜け出せるのが良いみたいだよ。それを口実にして、面倒になったら逃げられるって言ってるくらいだし」
なるほど、そういうものなのかと思いながら、一行は闇の大陸チェムノーニ地方を抜け、目的地であるオンソンに入るための関所に到着したのだった。
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