Ver.3/第42話

「こんにちは」

 予想通り、各地のイースター・バニーの行き先は同じで、別々に追いかけていたグループと最終的には合流することになった。

 けっこうな数のプレイヤーがまとまっていると思ったら、2パーティがたまたま居合わせたらしく、総勢9人のグループであり、そのほとんどがユキチと同じくらいの新規プレイヤーであった。

「え!? モカさん!? モカさんって、あのモカさん!?」

 互いに簡単な挨拶を済ませると、初心者プレイヤーを引率する先輩プレイヤーのひとりが驚きの声を上げる。

「あのモカさんが、どのモカさんか分からないけど、まあ、そのモカさんだろうね」

 ニッシッシと愉快気に答える。ハルマと違い、知名度があることに気後れしないのがモカだった。自分で言いながら、早口言葉みたいだねと更にニッシッシと笑い出す。

 ハルマのことも気になったみたいであるが、モカとハルマが一緒に行動してるはずもないかと勝手に自己完結してくれたらしく、これ以上の騒ぎになることもなかった。どうやら、両雄が一緒になって〈ゴブリン軍の進撃〉を乗り切った盟友であることは知らない時期に始めたプレイヤーであるらしい。

 それよりも、各地に配置されていたイースター・バニー3羽が合流し、いよいよ最終地点に向かう段階になっていた。

「あそこだ」

 集団の誰かが声を上げた。

 見てみると、不自然に空いた穴が徐々に小さくなっていくところだった。塞がる前に飛び込めということらしい。

「よーし! 競争だ!」

 モカが突然叫ぶと、ユキチも即座に反応して全力で走り始める。

 言い出した本人も、すぐに全力疾走するかと思いきや、初心者達が動き出すのを後ろから眺めるばかりである。

 なんだかんだと大人の対応するんだなと思っていたが、もっとも大人気ないのが彼女であることを知ることになる。

「ふふん。そろそろかな?」

 ユキチが先頭で穴の中に飛び込むかと思った矢先だった。モカはドンッと大地を蹴ると、本気で走り出したのである。

 もしも、この世界に風圧があれば、前を走っていた全員が吹き飛ばされたことだろう。

「いっちばーん」

 人差し指を天に向けながら、大きな胸を強調するように体を反らし、ぴょんと穴の中に飛び込んでしまった。

「なんちゅー脚力だ」

 あまりのことに、ハルマだけでなく、その場の全員が唖然としてしまう。


 最後尾で飛び込んだのはハルマで、穴の中は異空間になっていた。

「おー。キレイ」

 けっこうな広さがある空間に桜の木が乱立し、花びらを舞わせている。

 雅な風景に、先に飛び込んでいた面々も一様に惚けているようだ。


 ……が。


「ん? なんか、奥の長老樹サイズの木だけ、花咲いてないんだな」

 額に手を当て、目を凝らす。

「ホントだね」

 ハルマの様子に気づいたユキチも、隣に来て視線を向けると、近くにいたプレイヤーが教えてくれた。

「あー。何か、噂だと、5パーティ以上が一緒になると、レイドボスが出てくるらしいですよ。でも、人数多すぎても条件満たさないみたいで、狙って挑戦するのは難しいみたい。今回みたいに、3パーティしか居合わせないって珍しいんじゃないかな?」

「え!? 5パーティっていったら、フルレイドじゃん。あぶねー」

 複数のパーティが同盟を組んで戦うレイドボスにも3パターンあり、2パーティで挑むノーマルレイド、3パーティで挑むミドルレイド、5パーティで挑むフルレイドが確認されている。

 当然、パーティ数の多いレイド戦ほど難易度が高い。

「ちょっと待って、ハル君」

「ん?」

「合流したのが2パーティでしょ? で、ぼく達、パーティ解散しちゃってるから、ソロの3人だよね?」


「……あ」


 程なくして、視界の中にレイド戦を告げるアナウンスが表示されることになるのだった。

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