Ver.3/第32話

 モヤシに〈大工の心得〉を取得させることに成功したことで、ハルマはいつもの日常を取り戻していた。

 とはいえ、そのモヤシは、ハルマと違いすぐに村へと開拓が進むこともなく、移住者を見つけるのに苦労しているみたいである。そのため、頻繁にハルマの所を訪ね、開拓の準備に時間を費やしていた。

 自分の家に移動するよりも、町で作業するよりも、一番手っ取り早いからである。

「い、いつも、すみません」

「いーよ、いーよ。俺はこれから、イースターイベントやりに出かけるから、好きに使ってくれ。……ところで、モヤシ君はイベントに出かけないの?」

「ぼ、僕は、素材集めながら、さっきまで探してたので、大丈夫です」

「あ、そうなんだ。オッケー。じゃあ、また」

「はい。またです」


 モヤシを置いて家を出てから、どこに向かうかを考え始める。

 イースターイベントは、基本的に、新規プレイヤーにテイムモンスターを少しでも早く手に入れて欲しいという狙いがあることは明白だ。故に、初期の頃から遊んでいる、ハルマのようなプレイヤーにとってはあまり旨味のないイベントである。それでも、タロットカードの破片は集めておいて損はない。

「新規プレイヤーの邪魔にならないエリアの方がいいだろうな。ついでに村の拡張用の素材も集めておくか」

 村の開拓はずいぶん前に終わっており、ⅡからⅢへとなっていた。これにともない、住人も50人から75人に増やせるようになっている。

 ただ、学校のテストと魔王イベントが続き、更にはユキチみたいな新規プレイヤーの知り合いも増える気配があったため、村の拡張に手を出せてはいなかったのである。

 モヤシは自分の所有地を確保したので住人になることはないが、ユキチは切り株スタンプの村に拠点を置くことを希望していた。

 ハルマとしては、先日フレンドになったマカリナも、そのうち招待してみたい気持ちも少しあった。

 ただ、マカリナはかなりハルマに似たプレースタイルらしく、基本ソロで行動していることが多いが、頻繁にパーティを組んでどこかに出向いていることも多かった。

 おそらく、ハルマにとってのチップ達のようなフレンドがいるのだろう。そのため、どういうタイミングで声をかければいいのか踏ん切りがつかず、なかなか再会の機会は巡ってきていなかった。

 この辺は、限られたフレンドとしか交流を持ってこなかった弊害であろう。

 今回もフレンドリストで確認してみると、すでにパーティを組んでオンソン地方というエリアに出かけているようである。

「チップ達はケオタレク地方か。オンソンもケオタレクも知らないエリアだな……。どうしようかな? 新規エリアに挑む気分じゃないし、アウィスリッドもPVPになるのは嫌だし……。カサロストイかロシャロカかなあ」

 先日、進んだばかりのロシャロカで、採掘しながらイースターエッグを探すか、カサロストイで建材用の素材を集めながらにするか、と考えたところで、カサロストイを選択する。

 やはり、村の拡張を優先したいという気持ちが強かったのだ。

 こうしてハルマは、何の気なしにカサロストイへと飛んでいくのだった。

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