Ver.3/第31話
「村にするには、移住者を集めることと、教会と商業組合の要望を達成する必要があるから、こっから先は地道に開拓していくしかないかな」
湖の周辺がモヤシの所有地になったことを確認すると、今後の流れを教えて、ハルマはひとつの役目を終える決断を下す。まだまだ手伝えることはあるだろうが、これから先は職人モヤシの腕の見せどころでもある。出来上がった村に招待されるのを待つ方が、楽しめることだろう。
「はい! ありがとうございました!」
モヤシも、今までのやり取りでハルマという人物の人間性みたいなものはわかってきていたので、これ以上求めることもなかった。それどころか、一人前と認められたような気がして、嬉しいとまで思っている様子である。
「でもよお、村ができるまで地道に往来するのは、けっこう難儀そうだな」
モヤシの所有地を一通り見て回ったチップ達が戻ってくると、率直な感想を述べる。
「まあ、そうだけど、俺達の時と違ってテイムモンスターを借りられる上に、サポートNPCまで借りられるんだ。モヤシ君みたいな生産職寄りのプレイヤーでも、問題ないんじゃないか? それに、これは経験してるからわかるけど、拠点に職人設備が置けるから、作業自体はそんなに苦にならないんだよ。しかも、ゴールドも稼ぎやすくなってるしな」
「あー。最初に5万ゴールド支給されるようになったのはデカいな、確かに」
新規プレイヤー向けの取り組みは、〈冒険者ギルド〉と〈モンスター牧場〉の追加だけではなかった。5万ゴールドに加え、経験値を多く獲得できるボーナスアイテムも追加で支給される取り組みも最近スタートしたのである。
これもあって、ユキチは初日でレベル20以上にまで成長できていたのだ。
「ほーんと、新規プレイヤーは優遇されてるわよね。今度のイベントも確か、新規向けのよね?」
「イースターイベントか。〈聖獣の卵〉を前回取れなかった人向けの内容だから、確かに新規向けだね」
「ん? そんなイベントあるの?」
アヤネとシュンのやり取りに、ユキチが割り込む。
「あれ? ユキチちゃん知らないの? 意外。こういう情報はチップ以上に詳しいと思ってたのに」
ハルマは率直な感想を口にする。
「イースターイベントの告知出たの、今日の午前中でしょ? ユキチちゃん、夜遅くまでゲームして、起きるの昼過ぎだから、あの時間帯に出た情報は目を通すのが遅いのよ。そんなところも、かわいいでしょお?」
「ああ……、はい」
「はい、はい。お姉ちゃんの気持ち悪い発言は無視して、イベントのこと教えてちょうだい」
「はっはっは。通常営業って感じだな。イースターイベントは、よくあるタイプのイベントだよ。フィールドに散らばったイースターエッグを見つけると、運が良ければタロットカードが見つかるって話だ。ただ、オレ達みたいにすでにテイムモンスターを孵化させたプレイヤーだと、運が良くてもタロットカードの破片止まりらしい」
「なーんだ。血沸き肉躍るタイプのイベントじゃないのか」
「いや、イースターを何だと思ってるんだよ……」
「あはっ! 確かに! ま、でも、ぼくも早くテイムモンスター欲しいから、がんばってみようかな」
こうして始まるイースターイベントで春の訪れが祝われることになるのだが、ハルマにとっては、また一味違う春の訪れも、このイベントによって引き起こされることになるのだった。
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