Ver.3/第21話

「うへぇ。この中からカギを探さないとダメなのか?」

 動けるようになってすぐ、ハルマは周囲を見渡したかと思ったら、即座に出口に向かっていた。

「開かない、か」

 シュンと同じく、机の上の宝箱には気づいていたが、本当にカギが必要なのかを確かめたのだ。警戒しなければならないことは、実はカギは閉められておらず、時間を無駄に費やすことだからだ。

 これは、何もハルマに限った行動ではない。同じ頃、チップとユキチも真っ先に確かめているからである。

 しかし、ここからが少し違ってくる。

「このカギ、自力で開けられないかな? 使えるものは何でも使って良いって言ってたし」

 謎解きゲームの根底を真っ先に無視しようと試み始めたのだ。

「カギ穴があるからには、ピッキング的な方法で開けられそうなんだよなあ。しかも、俺のDEXがあれば、わりと成功率高そうだし……」

 そう言うと、インベントリの中で使えそうな物を探し出す。

「お! いけそう」

 取り出したのは、素材として使う〈アンダーラビットのヒゲ〉という竹串くらいのサイズがある、金属並みの強度があるヒゲだった。

 とはいえ、ピッキングの技術などない。実生活でも体験したことがない以上、いくらDEXが人並み外れて高くとも、一朝一夕にできることではなかった。

「うーん。いけそうな手応えはあるんだけどなあ……」

 カチャカチャ鍵穴をいじっていたが、カギが開く気配はない。そうしていると、唯一連れて来れたマリーが声をかけてきた。

「何して遊んでるの?」

「別に遊んでるわけじゃないよ。カギが開けられないかな? って思って、試してるんだよ」

「ふーん。マリーが開けてあげようか?」

 思わぬ言葉に、一瞬、沈黙が訪れる。


 ……。


「開けられるの?」

「はい」

 ハルマの問いに、マリーは腕を扉に突っ込み、手探りで何かを探し当てたかと思ったら、カチャリとカギが開けられた音が返ってきた。

「なるほど、ね。便利な体だこと。ありがとう」

「えへへ。どういたしまして」

 マリーはゴーストの体を活かして扉をすり抜け、物理的に外からカギを開けてしまったのである。すり抜けようと思えばすり抜けられるし、触ろうと思えば触れるという、彼女ならではの芸当である。

 そうして、謎を一切解くことなく、部屋から出ることに成功することになるハルマだったが、その前にひとつ、アナウンスが表示された。

「ありゃ? この方法じゃマズかったか?」

 一瞬だけ警戒したが、全く意図しないアナウンスであった。


『スキル〈開錠Ⅰ〉を取得しました』

『ピッキングツールを使うことで、レベル1までのカギを開けることができるようになりました(DEXによって成功率が変化)』

『〈開錠Ⅰ〉専用レシピを覚えました』

『DEXが常時25増える』

【取得条件/規定値以上のDEXの時、本来とは違う方法でカギを開ける】


「お!? ラッキー。またマリーのおかげでスキル増えた。さーて、さくさく進みますか」

 思わぬスキル取得に、鼻歌混じりに部屋を出るハルマなのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る