Ver.3/第20話

 部屋から出ると、そこは洋館の2階だった。

 正面に大きな吹き抜けがあり、階下を見下ろすことが出来る。1階は大広間で、天井に吊るされた大きなシャンデリアに照らされている。

 しかし、煌びやかな雰囲気はまるでなく、それどころか、不気味さすら漂う荒れ具合であった。

「モンスターにでも襲われたのかな?」

 壁や床に残る深い爪痕や、焼け焦げた跡を眺めながら移動を開始する。ここから先の指令は、何もないのだ。

 1階に降りる階段は2か所あるが、右側のルートしか進めない。左側は、すぐ近くの床が抜け落ちてしまっているため、シュンのステータスでも飛び越えることはできないだろう。

 階段にたどり着くまでにも2つ部屋があり、中を確認しながら進んでいく。

 手前の部屋は、出てきた部屋と同じタイプであり、廊下側に手動のカギが取り付けられていた。

「この造りって、監禁用なのかな? イベント用だろうから、特に意味はないだろうけど」

 中には何やら仕掛けが置かれているが、ここだけでは意味不明なものだった。シュンは軽く調べるだけで次の部屋に進むことにする。

「こっちは、外にカギ穴がある普通のタイプか」

 ドアノブを回そうとするも、ガチャガチャ抵抗されるだけで開く気配はなかった。

 そのまま階段を下り広間へと向かうと、すぐにゴールと思しき大扉が目に入った。そこには〈聖獣の門〉で見たような、大きな錠前が取り付けられていた。

「あそこのカギを見つけないと、だろうな。ん? 何か模様があるな」

 一先ず、錠前の所に近寄ることにする。

「紋章?」

 錠前には、4つの動物がレリーフになった紋章が取り付けられていた。

「取り外せる。確か、さっきの部屋にヘビの紋章と同じ図柄の凹みがあったよね?」

 ふむふむ、と数度頷くと、次にやるべきことを理解した。

「これと同じ図柄を4か所見つけないといけない、ってことだね。後1時間弱で、見つかるかなあ?」

 シュンは周囲を見渡し部屋数を確認すると、ふうと一度息を吐き出し、行動を開始するのだった。


「これでゴールじゃなかったら、さすがに厳しいけど、どうだ!?」

 4つの紋章を使って見つかったカギは、大扉のカギではなく、最初に開けられなかった部屋のものだった。

 そこに入ると、最後と思われる謎が提示され、部屋に置かれていた宝箱を開けることを要求された。

 とはいえ、それは4つの紋章を使って巡って来れば手に入るアイテムを使うだけであったので、比較的あっさりと大扉のカギを取り出すことに成功していたのである。ただ、ここまで75分以上が経過しており、制限時間のことを考えると、これ以上はもたもたしていられなかった。

 大扉の錠前が解除され、押し開けると、そこには何もなく、森が先に見えるばかりであった。


『クエスト/謎の館をクリアしました』

『報酬として、知恵の雫を手に入れました』


「お、やった。クリアだ!」

 シュンは手に入れたアイテムを早速調べてみる。

「おー! INT上昇薬じゃん!」

 シュンが喜ぶのも無理はなかった。これは、通常の一定時間だけ効果の出るINT上昇薬とは違い、恒久的な効果が出るアイテムだったからだ。つまり、レベルが上がったようなものである。

 それからしばらく待っていると、続々と仲間達がクリアして出てきた。

「あれ? ぼく4番目? けっこう早かったと思うんだけどな」

 シュンに続いて出てきたのは、意外にもモヤシだった。それからだいぶ時間が空いてチップ、僅差でユキチの登場となった。

「ふふん。甘い、甘い」

「くそー! チップにだけは勝ちたかった!」

「ハハハ。偉そうにしてるけど、ふたりの差なんて1分もなかったよ」

「あ! シュン、言うなよー」

「え!? マジ? まあ、でも、負けは負けだもんなあ」

「そういうこと。オレの勝ちに変わりはねえ! にしても、アヤネが遅いのは予想通りとして、ハルマもまだってのは意外だな」

「そういえば、そうだね」

「確かに、ハル君って、こういうの得意な方だもんね」

 モヤシ以外の3人がそこまで口にした段階で、あれ? と、表情が怪しくなっていた。

「何だか、嫌な予感がするな」

「奇遇だね、ボクもだよ」

「あはっ。ぼくも!」

 そこまで耳にして、モヤシも「あー」と視線を館の中に向けるのだった。

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