Ver.2/第84話

 ゴリとガッツンにスケルトンとスカルアーチャーの攻撃が集中している間に、スズコとファングは城門に攻撃を加え続ける。

 ここでMPをケチっているとスキルの効果が切れてしまい耐え切れなくなるため、最大火力の短期決戦だ。

 その間、ゴリとガッツンに群がるアンデッド達は、ミコトとソアラが範囲魔法で処理していく。こちらはゴリに守られながら、MPの消費は抑え気味だ。

 何しろ、ここは第1関門。本番は中に入ってからなのだ。

 特に、ミコトは回復役もこなさなければならないため、ボス戦までMP切れは防がなければならない。

 砦の中には自動回復を促す部屋も用意されているが、タイムアタックで上位を目指す以上、これは最後の手段である。

「ファング、〈食い散らかし〉! っと、あたしは〈粉砕〉!」

 城門の耐久値から判断し、スズコはファングにもスキルを使わせ、破壊に成功していた。ここまでで移動に5分、突破で8分、トータル13分かかっているが、目安が15分なのでかなり良いペースである。

 

「こっからが少人数のつらいところね。打ち合わせ通り、外周に沿って左回りで数を稼いでいくわよ」

 砦の中に侵入すると、まっさきにスケルトンの群れとの戦闘になってしまう。しかし、これを全部さばいていては時間だけを浪費してしまう。

 ある程度は無視して先に進むことを選択していた。

 そうして、多少入り組んだ造りの内部を進みながら、スカルアーチャー、スカルナイト、ワイトを探しては討伐していく。

 ただ、この辺の情報はダンジョン出現の数日前から、公式サイトに比較的詳細に開示されていた。

 というのも、どうせ情報は出回るはずなので、その手間は省いてもいいだろうという安藤の判断があったからだ。

 スズコ達は頭に叩き込んだ情報を元に、効率良く数を稼いでいく。

「あれで最後ね!?」

 3人パーティでの出現条件である討伐数をカウントしながら、ヴァンパイアの出現する中央に向かっていると、予定通りの場所にスカルナイトがスケルトンの群れを従えながら待機しているのが目に入った。

 消費アイテムの残数も、余裕がある。

 MPの消耗も予定よりも抑えられていた。

「ファング、スケルトンは無視して、スカルナイトだけに集中するよ!」

 ゴリとガッツンがスケルトンの群れを引きつけている間に、スズコとファングがこれまで続けてきたのと同じようにスカルナイトに襲いかかる。

 もはや、どちらがモンスターなのかわからない獰猛さだ。

「やった。順調だよ」

 ヴァンパイア出現のアナウンスが入り、ミコトはぴょんとひとっ飛びして喜んでみせた。それも、そのはずだ。

 現在のランキング1位のタイムは40分台後半であり、1時間を切っていれば600位以内に入ることができる。そして、彼女達の視界で時を刻むカウントは、まだ30分台前半だったのだ。

「ボス戦に15分。結界装置まで3分。ランキング上位も目指せるよ!」

 スズコの言葉に、士気も高まる。

 

 中央の広場に走り込むと、空が急に暗くなっていた。

 3人の戦闘態勢が整うのを待っていたように、闇にコウモリが集まり出すと、一拍の間を置いてパッと飛び散り、中からイベントボス、ヴァンパイアが出現した。

 戦闘は激しかった。

 ヴァンパイアはボスに相応しい強さで、物理攻撃、魔法攻撃、ともに強力で、ゴリとガッツンの壁がそろっていなければ回復も追いつかなかったことだろう。

 しかも、〈怪音波〉や〈ダークネスカーテン〉といった状態異常魔法も織り交ぜてくるため、非常に厄介な相手であった。

 それでも、10分を越えたくらいでHPの残りも25%まで削ることができていた。

「きますよ!」

 このタイミングで行動に変化が起こることは知っていた。

 公式サイトの情報ではないが、先人達の悪戦苦闘は役に立つものである。

「ここが勝負所だからね! 全力で、って、ちょっとお!?」

 ヴァンパイアの号令によって、周囲にスケルトンが集まり出した。これは砦の中に配置されていたスケルトン達で、先に討伐しておけば数が減るのだが、タイムアタックであるために簡単に数は減らせない。

 しかも、このスケルトンの役割がヴァンパイアの回復要員であるため、ここに集まってきたスケルトンは可能な限り排除しなければならないのだ。

 で、あるのに。

「このタイミングで〈ダークネスカーテン〉は卑怯でしょ!?」

 周囲のスケルトンに気を取られたわずかな隙に、ヴァンパイアは状態異常である暗闇を付与する魔法〈ダークネスカーテン〉を使っていた。

 これに巻き込まれたのが、ゴリ、ガッツン、スズコ、ファングの前衛全員だったのである。

 しかし、これは大きな痛手とはならない。

 ミコトとソアラが治せるからである。

「んなああああああ!!」

 スズコ達に大したダメージはない。

 ないのだが……。

「ごっそり回復されちゃいましたね」

 25%まで減っていたヴァンパイアのHPは、75%程度まで回復してしまっていたのだった。

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