Ver.2/第83話

「前回まともに参加できなった分、暴れるわよ!」

 スズコはグッと拳を握り締めると、ミコトとゴリに声をかける。

 すでにパーティを組み、〈不死者の砦〉専用サーバーに移動してスタートを待っている状態である。

 目的地である砦までは、最短で100メートルといった地点。

 しかし、彼女達が狙うのは最短距離にある城門、通称A門ではなく、2番手の位置にある方、通称B門だ。3人パーティでの挑戦であるため、ゴリが壁役で奮闘したとしても、さすがに耐えられないと判断したからだ。

 それでも、5人以下のパーティであれば、一番離れた位置にある城門、通称C門を目指すのがセオリーなので、かなり攻めている方である。

「先輩ぃ。自分とガッツンだけで、大丈夫っすかね?」

 ガッツンと命名されたゴリのテイムモンスターは、プチ機兵から成長し、ガーディアンに進化していた。

 大楯を両手に装備できる特殊なモンスターだが、その分、火力は全くない。それでも、ゴリとのコンビネーションが決まると、簡単には破られない堅さがあるのは頼もしい。

「大丈夫よ。ミコトのところのソアラちゃんの支援もあるんだから、城門を突破するまでなら耐え切れるはずよ」

「うちのソアラちゃんを信じて」

 スズコの言葉にミコトも自信満々だ。しかし、その表情はソアラと名付けられたテイムモンスターにデレデレである。

 ソアラはピグミーウィッチに進化した小さな猿である。

 生まれた時から小さな体であったが、その分INTが高く、攻撃も支援もできる。AGIも高いため、ひとつひとつの魔法はまだ成長し切っていないながらも、回転が速いので、かなりの効果が期待できた。

 ゴリもミコトも、テイムモンスターは自身に似たパートナーへと成長している。そして、スズコも同じだった。

 スズコの相棒は、小さなピラニアタイプの姿から成長し、サメタイプへと進化している。ファングと名付けられたそれは、今のところ、ただただ物理攻撃に特化した存在である。ちなみに、スズコは名づけが苦手なため、彼女がゲームで付ける相棒の名前はファングに統一されている。

 スタートまでのわずかな時間を、いつもの調子で過ごていると、始まりのSEが鳴り響いた。

 同時に、境界線を作っていた透明な結界も消え、視界の端に表示されていた時計も動き出した。

「ゴー! ゴー! ゴー!」

 スズコの号令と共に、映画で精鋭部隊が突入するように3人と3匹は一斉に走り出す。


 A門はほぼ正面、向かってやや右側に位置するが、目指すのはB門なので左に向かって一直線に駆けていく。多くの挑戦者が選択しているC門に向かうには、A門の前を通過しなければならないため、エンカウントを避けて大回りしなければならない。さらに、砦の周辺にはいくつか警備兵が待ち構えているポイントがあるため、そこを突破するなり、迂回するなりしなければならず、A門以外にたどり着くのはそれなりに時間を必要とした。

 3人ともAGIは余り育てていないプレイヤーであるので、進行速度に差が出ることもなく、無駄な戦闘は避けることで最初の難関へと到着していた。

 この時点でA門に向かっていた場合とは、4分ほどの差が出てしまう。

「ゴリ! ガッツンと一緒に壁! ミコトは支援終わったらザコ処理任せるよ! ファングとあたしで、一気に門を突破しちゃうから!」

 打ち合わせ通りの指示を出し、スズコは戦斧を振り上げる。

 一気に門を突破と口では言いながらも、周囲にいるスケルトンをある程度は減らしておきたいからだ。

「了解であります! ガッツン、〈警報〉!」

 ゴリの指示に従い、ガッツンはひとつのスキルを発動させた。〈警報〉は赤ランプを点滅させながら警報音を発するスキルで、周囲にいるモンスターのターゲットを集めることができる。

 通常はダメージを与えられた相手に向けられるヘイトを、音と光で誘導できるため、壁役としては非常に優秀なスキルであった。

「よし! 上手いこと集まりました! ミコト先輩、お願いします」

「もうやってるよ!」

「おお! さすがっす! なら、自分も〈要塞〉!」

 ミコトの言葉の通り、ソアラからエンチャントDEFの魔法が放たれているのを確認すると、ゴリもスキルを発動させた。

 こちらは、自身を含む範囲内にいる味方全員のダメージを軽減するスキルである。軽減量は使用者のDEF値によるため、ゴリくらいの盾職が使うとザコ相手であればほとんどダメージを通さなくなる。しかも、ソアラによってバフもかかっているため、なおさらだ。

 こちらも非常に優秀なスキルなのだが、範囲が狭いのが難点であった。

 しかし、それもガッツンが加わるまでの話だ。

「やっぱ、そのコンボ、便利だねえ」

 スズコは一気にヘイトがガッツンに向けられたことで、ほぼ無警戒となり、城門へと走り込みながら呟いていた。

 今までは自身の高い攻撃力のせいでヘイトが集まりやすく、ダメージ量をコントロールしながら戦う必要があったせいで回転数がなかなか上がらず、ストレスを感じていた部分でもあったのだ。

 加えて、今はファングという相棒のお陰で、そのヘイトも分散することができている。

 多くのプレイヤーが感じていることだが、テイムモンスターの登場によって、ガラリと戦い方は変化していたのだった。

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