第10章 孵化

Ver.2/第76話

 公式放送によって、〈聖獣の卵〉からテイムモンスターが生まれることが確定となり、正月ボケのふわふわした感覚だった世界に活気が戻っていた。

 これは、テイムモンスターの登場だけが原因ではなく、1か月後に始まる〈魔王イベント〉への意欲も後押しとなっているのは間違いない。


「昨日、テイムモンスター生まれた人がいたみたいだな」

 いつも通りのタイミングでチップからチャットが飛んでくると、真っ先に最新情報が届けられた。

「おー、ついに!? どんなモンスターなんだ?」

「スクショだけだから何とも言えないけど、アヤネが喜びそうな感じだったわ」

「ほー。カワイイ系か」

「審判のカードから生まれたらしいけど、プチゴーレムってモンスターで、卵と同じサイズのゴーレムらしいわ。まあ、成長していけば、でっかくなるんだろうけど、正直、可愛かったな」

 チップは思い出しながら微笑を浮かべる。

「俺たちが全種類そろえたのって、最初に卵の情報出てからどんくらい後だ?」

「どうだろうな? たぶん、3週間は経ってなかったと思うけど」

「ってなると、今月中には俺たちのも生まれるのかな?」

「あー。そのくらいかもな。プレイヤーと同じで、最初のうちはレベルも上がりやすいみたい。初期のステータスはプレイヤーよりもちょい高いらしいけど、まだ情報が全然ないから、はっきりしたことはわかんないな。たぶん、すぐにレベルが上がりにくくになって、同じくらいの強さで落ち着くとは思うけど」

「そっかあ。どんなモンスターが生まれるか楽しみだな」

「そうだなー」

 チップとのチャットが終わり、視線を〈聖獣の卵〉に向ける。出かける時はインベントリに入れての移動だが、家にいる時は取り出して、誰かしらが抱いていた。

 今はニノエの腕に中にあり、マリーと談笑しながら温めている。

 意外なことに、ヤタジャオースも協力的で、けっこうな頻度で見守っていた。

「とりあえず、イベントも終わって人の動きも少なくなっただろうから、出かけるか?」

 結局、ニューイヤーイベントのケセランパサランは1回しか見つけることはできないまま終了となっていた。

 しかし、ハロウィンイベントから長く続いた探索系イベントが終わったことで、フィールドを隈なく出歩くプレイヤーは減少している。今は、次なる〈魔王イベント〉に向けてレベル上げと、新スキルの獲得に勤しむターンであり、これに〈聖獣の卵〉の孵化が加わっている状況だ。

 こういう時期であれば、ハルマ一行が出歩いていても、あまり注目されずに済むはずだ。

「もうじき皆のテイムモンスターも生まれるとなると、万能ブラシみたいなアイテムが他にもあった方がいいかもな。育成に使えそうなもの他にも何かないか、探してみるかな?」

 万能ブラシはマリーの髪をとかすために作ったアイテムだったが、テイムモンスターに有用なスキル〈トリマー〉を取得できるものだ。欲しがるプレイヤーも多いだろう。

 しかし、このブラシ、もともとは家畜用のブラシのレシピから派生したものなので、まずはそのレシピを覚えなければ派生レシピも使えない。

 困ったことに、この家畜用のブラシのレシピというのが、村を所有、もしくは所有者のいるエリアに拠点を構えていなければ受けられないクエストで覚えるものなので、一般には出回っていないのだ。

 ハルマが作って市場に流すにも限度があるので、今のところ、知り合いに配るだけで打ち止めだろう。

 ちょっとだけアンフェアな気もしたが、それを言い出したらキリがないこともわかっている。ゲームに運の要素はつきものだ。

 それを楽しめるかどうか、という話なだけだ。

 ならば、やることはシンプルだった。

 ゲームを楽しむだけである。だいたい、そのバランスを取るのはハルマの役目ではない。

 ハルマは〈聖獣の卵〉をニノエから受け取りインベントリに仕舞うと、仲間を引き連れて外に出かけるのだった。

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