Ver.2/第73話

 クリスマスを過ぎ、新年を迎えるまでの数日、どことなく特別な空気が世間的にも漂う中、ハルマはこの日も自宅にこもっていた。

 少し前まではケセランパサランの捜索に乗り出したい気持ちを抑えてのものだったが、今は率先して引きこもり中である。

「こんなものかな?」

 自宅に設置してある〈細工〉の職人設備でコツコツと作り続けていたものが、ようやく出来上がったのだ。

「まずは……、やっぱり師匠に見てもらうか」


 家から出ると、近所に建つ一軒の家を訪ねる。

「こんにちは」

 家の近くには畑があり、この季節であっても作物が何種類か育っている。

「おや。こんにちは。どうなさいましたか?」

 出てきたのは、アンだった。

「よかった。見てもらいたいものがあるんですよ」

 そういうと、作り終えたばかりのペンダントを取り出した。

「まあまあ、グリーンホーンのペンダント、出来上がったんですね」

「はい。どうですか? 問題ないですかね?」

 カフェのマスターに届けた後、クエスト達成の報告を終えると、その場で作り方を教わっていたのだ。

「ええ。とてもお上手ですよ。私の作ったものよりも上手いくらいだわ」

 アンの優し気な笑みに釣られ、思わずハルマも安堵の笑みを浮かべる。

「よかったー。じゃあ、これはお礼に、アンさんにプレゼントです。ベンジャミンさんの分も作ってあるので、使ってください」

 そう言うと、インベントリからもうひとつ取り出し、アンに手渡す。

「まあ! 良いの? ありがとう」

「はい。村のみんなの分も作ってあるので、これから届けに行こうと思っています」

「そうなのね。みんな喜びますよ」

「そうだと良いんですが……。それでは、また」

「はい」

 少年らしい照れ笑いを浮かべながら去っていくハルマの背中を、アンは孫を見送るような目で見送っていた。そうしてハルマの姿が見えなくなると、手にしていたペンダントを嬉しそうに見つめる。

 その姿は、とてもじゃないが、NPCが見せるものとは思えないほどだ。


〈木工〉作業でペンダントを作り、〈細工〉で仕上げていく。

 アクセサリー系は装備品としても出回っているので身につける者も多く、だいたいは何らかの効果を内在しているものだ。

 このグリーンホーンのペンダントも例外ではなく、実用的な面があることを作ってから気づいたものだ。


〈グリーンホーンのペンダント〉

 守備力+1

 基礎効果 呪い、毒、マヒにちょっとだけ強くなる。

 アイテムとして使うと、呪い、毒、マヒの解除ができる。アイテムとして使うと壊れる。


 こういう「ちょっとだけ」みたいな表現の時は、だいたい3%の効果を示すことが多い。

 たかが3%だが、こういう物が複数集まるとバカにできない効果となるため、重宝されることが多いのだ。

 むろん、ハルマはそんなことなど微塵も考慮せず、単純にお世話になった人たちにプレゼントしたいと思っただけだった。

「はい。皆の分もあるからな」

 村の住民に配り終えた後で自宅に戻ると、もっともお世話になっているNPC達に直接装備させていく。

 マリー、ラフ、トワネ、ズキン、ユララ、ヤタジャオース、ニノエと配り終え、この半年のことも振り返る。

「皆のおかげで、ずいぶん楽しませてもらってるなあ。来年もよろしくな」

 そして〈聖獣の卵〉を取り出し、まだ見ぬ仲間にも挨拶を済ませるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る