Ver.2/第68話

 イベント〈聖獣の門〉も終盤となり、タロットカードを全くそろえられていないプレイヤーが一発逆転を目指して虹の門を探し回っているため、ハルマはひとり、他のプレイヤーに出会う可能性の低い場所に出かけていた。

 向かったのは、長老樹の地下にある足湯〈癒しの水〉がある場所である。

 特に疲労がたまっているわけでもなく、新しいエリアを目指すわけでもない。疲労がたまっていたとしても、アバターの体で浸かったところで水温もわからなければ芯から温められるわけでもない。雰囲気だけを楽しむか、効能を得るくらいしか今のところ利点は存在しない。

 ここまで来た目的は、単純に、卵を温めると孵化が早まるかな? と、思っただけだった。

「あれ? 誰かいる?」

 自分達以外に人がいるとは思っていなかったため警戒したが、そこで寛いでいたのは、ニノエと同じダークエルフだった。

「これはこれは。ハルマ様にニノエじゃないか」

 足湯に浸かり、寛いでいる数人のダークエルフとは別に、近くに腰掛けていた老婆が声をかけてきた。長命のエルフ族であるのに、見た目も老齢を感じさせるということは、かなりの年齢なのだろう。

「お久しぶりです。セイアン」

 ニノエはいつもの砕けた態度から一変し、キリッと引き締まった表情で応えてみせる。

「はじめまして、セイアンさん」

 ハルマも無視するのは悪い気がしたので挨拶する。

「セイアンはマッサージ師なのです。どうですか? ハルマ様も頼んでみては?」

「おお。それは良い考えじゃ。戦士の集落だけでなく、この長老樹まで助けていただいたのであろう? お礼に、わしの術を伝授しましょうぞ」

「え? ああ、はあ」

 ただでさえ高校生のハルマにとっては、マッサージの良さがピンとこないというのに、このアバターの体ではコリなんてものは感じないのだ。

 しかし、せっかく勧められたからには断るのも何だか変な気がしたので、素直に受けることにした。

 どこから取り出したのかわからないベッドのような施術台にうつ伏せになると、セイアンのマッサージが始まった。

 正直、何が行われているのか全くわからない。

 そうやって一通り施術が終わると、アナウンスが表示された。


『スキル〈マッサージ〉を取得しました』

『使用後、一定時間(DEXによって変化)、自動回復の効果が上がるようになる』

『使用後、一定時間(DEXによって変化)、クリティカル率と回避率が微増する』

『DEXが常時20上がる』

【取得条件/規定値以上のDEXの時、マッサージを受ける】


「え? 受けただけで覚えられるのか……」

 思わぬ出来事に少しびっくりしてしまう。この手軽さは久しぶりの感覚だ。

 使うかどうか微妙なスキルに思えたが、DEXが上がるのでけっこう嬉しく感じている。

「体の不調を感じましたら、またおいでくださいませ。ここにいない時は里におるじゃろうから、いつでもお越しくださいませ」

「あ、ありがとうございます。そうします?」

 セイアンはそれだけ告げると、道具を片付けて出て行ってしまった。

「もしかして、俺にマッサージ教えるために来てたのか?」

 何かフラグを立てていたのだろうかと考えたが、考えたところでわからないのは今に始まったことではない。

 この後は、当初の目的だった卵を〈癒しの水〉で温めながら、のんびり時間が過ぎていくのだった。

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