Ver.2/第52話
唐突な異変のせいで話が逸れていたが、モカの本題は別にあった。
「そうそう。家を作る材料、たぶんそろったよ。スズコなんかも、今日辺り届けに来るんじゃないかな?」
「ああ! そうでした。伝言、コウモリにありましたね」
そもそも、ハルマがアウィスリッド地方に行こうと思ったのも、村の拡張のために使う素材を集めるのが目的だったのだ。
それなのに、ずいぶんと余計なイベントに惑わされたものである。
「はい。これだけあれば要望の家が作れますよ。まあ、モカさんの場合、要望らしい要望はありませんでしたけど」
「正直、ここの宿屋でも事足りてるからね。でも、世界樹が育つのを間近で観察しながら過ごせるなら、ここに家構えて正解だよ」
ニッシッシと笑みを浮かべながら、切り株に育つ新芽に視線を向ける。
そうやってモカとしばらく情報交換のような世間話をしていると、スズコとミコトだけでなく、チップ達もやって来た。
「ハル君? そのエルフ耳さんって?」
毎度お馴染み、同じ説明を繰り返すの図である。
「あっはっはっはっはっはっは!」
チップはあまりのことに笑う事しかできないらしい。ただ、それは嘲笑という意味合いではなく、やってくれたな、という称賛の方が近いだろう。
「うぬー。ズルいぃぃぃ! ニノエちゃんみたいな美少女エルフ連れ回せるとか、ただのご褒美じゃん!」
アヤネの憤怒に、隣のミコトも「ふんすふんす!」と鼻息は荒いが、無言で何度も頷いて見せる。
「ハルマ様のご友人は、愉快な方ばかりっすね」
「だろー? ヘンタイばかりだから気をつけろよ? まあ、すぐに慣れるだろうけど」
「おい。ヘンタイは主にアヤネだけだぞ?」
「失礼ね! かわいいものをかわいいって言うのが悪いの!?」
「そーだ、そーだ」
「ちょっ、ミコトさんまで……」
「ハルマ様のご友人は、愉快な方ばかりっすね」
やりとりを聞いていたニノエは、改めて同じ言葉を繰り返すのだった。
「はい。ゴリの分も預かってあるから、まとめて渡すね」
ひと騒動が落ち着いたところでスズコが本題に入ると、チップ達も続けて素材を渡してきた。
「まあ、ハルマもやることあるだろうから、急がなくていいからな」
「ははは……。気にするな。好きでやることだからな」
実際、これからしばらくは村にこもって家造りに勤しむつもりである。
「そうだ! ハルマ君。このレシピ持ってる?」
用件が終わったところで、それぞれいつもの活動に戻ろうとしたところで、シュンが思い出したように振り返った。
「ん?」
「これなんだけど。金属弓のレシピ。最近、レアモンスターからドロップしたんだけど……」
「金属弓は知らないなあ」
「良かったあ。じゃあ、これ、あげるよ」
「え!? いいのか? レアモンスターのドロップなんだろ?」
「いいの、いいの。もっとレアな拠点作ってもらえるんだもの。それに、いつも消耗品融通してもらってるしね。だいたい、レシピ持っていてもボクじゃ作れないもん」
「そっか、サンキュ。ありがたくもらうよ」
「はーい。じゃあねー」
「おう。またな」
こうしてスタンプの村に、ひと時の静かさが戻るのだった。
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