Ver.2/第40話

 ハルマはまた、トワネに乗ってアウィスリッド地方を移動していた。

「その、長老樹の祭壇ってのは、誰でも入れるのかい?」

 ニノエから森について色々聞いている時、仕入れた情報だ。

 なんでも、水神の眷属が祀られている祭壇があり、そこには長老樹と呼ばれる巨木が生え、近くから湧き出る水はダークエルフ達から特別な名称で呼ばれているらしいのだ。


〈癒しの水〉と。


 名前からして、HP回復系の素材である可能性がある。となれば、これを使ってMPポーションを作れば、ハイブリッドポーションが作れるのではないかと考えたわけだ。

「昔は長老樹を使って結界を張ってたので、誰でもは入れなかったっすけど、入ることは難しくなかったっす。でも、長老樹が弱まった隙をつかれて、魔物に占拠されちゃった上に風喰いも悪さし始めたから、もう何十年も入れてないっす」

「え? そうなの?」

 それは話が変わってくるぞ? と、判断が鈍る。

 つい先日、風喰いを倒したばかりなのに、またボス戦は頑張りすぎじゃないか? と、引き返すことも検討したほどだ。

 しかし、ハイブリッドポーションを作れる可能性があるのなら、行ってみる価値はあると思ったのだが、続いて発せられた言葉に、余計決断が鈍ることになる。

「なんでも、魔王の手下だった連中らしくて、魔王が倒されても居座ってるっす。あいつらが居座り出した頃から、風喰いも凶暴になったっす」

「魔王の手下、かあ……。どーすっかなあ?」

 トワネを止めて、しばし考え込む。

 風喰いには運良く勝てたが、これは本当にたまたまだ。

 もし、風属性以外の攻撃をされていたら、おそらくハルマは生き残れなかっただろう。しかも、風属性の攻撃に耐えられたのも、相手がドラゴンだったからである。

 フォリートレントのように、物理攻撃主体のボスであれば難敵とはならないが、これもあまり期待できない。

「さすがに、ちょっと準備してからにするか?」

 一度、様子を見に行って、相手の強さを確認してみるものひとつの手だが、先にできる準備があるのなら、そちらを優先するもの悪くないと思ったのである。いくら勝ち負けにあまりこだわらないとはいえ、進んで負けたいとは思っていない。

 とはいえ、ハルマ自身の強化は簡単なことではない。根本的な解決方法は思いつかなかったが、ひとつ、やることリストに載せたまま放置していた案件があったことを思い出していた。

「トワネ、行き先変更だ。いつも通り採取をしたら、一旦帰ろう」

「わかりました」


 自宅に戻り、木工設備の前で作業を始める。

 前々からやろうと思ってはいたのだが、ズキンやヤタジャオースが加わったことで戦力的な不安が減っていたこともあり、先延ばししていたことがある。


 ラフの強化である。


 基本は人形のため、レベルが上がることはなく、成長させるには使われているパーツを強化しなければならない。

 もっと小まめに強化してくれば良かったのだろうが、初期性能でもじゅうぶんな強さであると感じていたため、そのうちでいいかと素材だけ集めているうちにここまで来てしまっていたのだ。

「さーて。どの素材を使おうかなー」

 アウィスリッド地方やカサロストイ地方に進めるようになってから、素材のランクも上がっていた。

 特に、アウィスリッド地方はエリア全体が森のため、枝系素材が豊富に取れていた。この中から一番ランクの高い素材で、柔軟性のあるものを選択して作業を始める。

「バーサクモードに入った時は、柔軟性のある素材の方が壊れにくそうなイメージがあるだけだけど」

 そうして、この日は、ラフの強化を済ませて一日が終わるのだった。

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