Ver.2/第23話

 コウモリの登場によって、戦況は膠着状態に陥ってしまっていた。

 ズキンも攻撃に加わっているのだが、魔女の魔法防御力が高いことと、物理攻撃を仕掛けるにはタイミングを合わせなければ空中に逃れてしまうようになったため、上手いこと当てられなかったのである。

 こういう時こそ遠距離物理攻撃である弓の出番であるのだが、コウモリを回避しながら攻撃できるAGIはないため、ハルマも二の足を踏んでいた。

「もー。コウモリくらい、あいつにも魔法が効けばいいのに!」

 アヤネは次から次に飛んでくるコウモリを、ミコトと一緒になって魔法で撃ち落としては不満を口にしていた。コウモリは物理攻撃は無効だったが、魔法による攻撃には弱く、それで何とか均衡を保つことができているのだ。

 それでも、繰り返されるコウモリの襲来に慣れ始めてくると、ハルマは魔女の行動に何やら既視感を覚え始めていた。

「なんだっけなあ? すげー見覚えがあるんだよな?」

 杖をくるくる動かしてはコウモリを操作する感じが、何かと一致して感じられたのである。

 魔法職の2人とゴリ以外、なかなか対抗手段が見つからない中、ハルマはふと視界に入ってきたマリーを見て、スッと何かが腑に落ちたことを悟った。

「あ!」

「どうした? 急に?」

「いや。やっと思い出した。あれ〈傀儡〉に似てるんだ」

「傀儡? ああ、マリーちゃんがラフ操るのに使うスキルか」

「それそれ。って、ことは……? アヤネ! ミコトさん! コウモリ、一匹残して!」

 ハルマは飛んでくるコウモリを撃ち落とそうとしていた2人に頼むと、スキルを発動させる。

「上手くいってくれよ!〈傀儡〉」

 手品のEXスキルである〈傀儡〉は、マリオネットを操るだけのスキルではない。

 相手の魔法防御力より自身のDEXが3倍以上ある場合、相手を操ることもできるのだ。ただ、相手の魅了耐性が高ければレジストされる可能性も高く、3倍という要求値の高さからこの用途で使ったことはなかった。

 スキルが発動すると、コウモリはぴたりと動きを止め、ハルマの支配下に入った感覚があった。

「いけた! アヤネ、ミコトさん。魔法の準備を! コウモリ、魔女にぶつけるよ!」

 ハルマの意図を理解した2人は、すぐに最大火力の魔法を準備し始める。

「「いけるよ!」」

 コウモリがハルマに動かされ、魔女に張り付けられたのを待つことなく、2人の魔法が放たれる。

「「やった!」」

 コウモリによって大幅に魔法防御力が下げられた魔女に、火と水の魔法が襲いかかると、今までにない大ダメージが与えられたのがわかった。

「よし! 今だ!」

 大ダメージによる気絶のバッドステータスも入ったらしく、魔女は箒から落ちて床に倒れ込んでしまったのだ。それを見逃さず、チップとスズコが走り出すと、モカも慌てて後を追いかけていた。

 あとはどうなったかは、語る必要もない一方的な展開となったのだった。

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