Ver.2/第2話

「戦闘エリア全体を対象に、全員を暗闇の状態異常にして、全ステータスにデバフ効果も入る〈暗黒世界〉も使えそうだなー。俺の場合〈心眼〉で暗闇無効だし……。でも、ステータス下がるのはちょっと困るか? 元々低いんだから、これ以上低くなったところで影響ないか? あ! DEX下がるとガード率が100%に届かなくなるか……。うーん」

 帰り道にチップに尋ねられたこともあり、ログインしてからずっと魔王イベントで獲得した、魔王のエンブレム金との交換スキルを調べていた。

 ちなみに、魔王のエンブレムは、交換してもレプリカが手元に残り、装飾品として何の効果もないが、身につけることができるらしい。

 ハルマは見せびらかす趣味はないので、記念品としてインベントリに仕舞ったままにするか、ゲーム内の自宅に飾ろうと思っている。

 魔王スキルの交換は、特に期限が決まっているわけでもないのだが、現状、ハルマしかその権利を持っていない。優越感に浸りたいという気持ちもゼロではなかったが、同じようなことを何度も訊かれるのは、ちょっと煩わしそうだな、という気持ちの方が強かった。

 しかし、用意されていたスキルは、かなりの数があった。

 数が少なければ選択肢が少ないと不満が出るが、多ければ、それはそれで選択肢が多すぎて決められなくなる。人間とはそういう生き物だ。

 ただ、数は多いが、いわゆる魔王スキルと呼ばれるものは3割程度で、後は、店で売っている魔法の上位版であったり、よく聞くスキルの上位版であったりした。

 というのも、魔王スキルは確かに特殊なスキルばかりなのだが、多くがデメリット付きであったり、使いどころが限られたりするものばかりのため、倦厭する者も一定数いると考えているのだろう。

「敵プレイヤーが全滅させられたことのあるモンスターを召喚して、1分半戦わせる〈敗戦の記憶〉か。これも面白そうだけど、俺、PVPに興味ないしなー。だいたい、初期の頃に全滅させられたモンスターが出てきたら、足止めにもならないだろうし……。自分が全滅させられたモンスターを召喚だったら、もう少し使いやすそうだ……、け、ど? あれ!? そういえば俺、全滅したことないな? これ、全滅したことのない、俺みたいなプレイヤーに使ったらどうなるんだろ?」

 そんなプレイヤー、新規以外では、生産職として町から出たことのないプレイヤー以外、滅多にいないことなどわかっていない。

 そうやって、リストに並んでいるスキルをじっくり吟味していたのだが、集中力も切れてきた頃、ひとつのスキルが目に留まった。

「あ……。DEX依存のスキルがある」

 魔王スキルにあるとは思っていなかったため、一気に興味がわいた。

「お? これは使えそうだぞ? DEXによって再現率の変化する複製能力〈贋作〉か。けっこう条件が細かいな。魔王っぽいスキルじゃないけど、ま、いっか。職人でも使えそうだし、これにしよう」

 リストをチェックしていくのに飽きていたのもあったが、このスキルが、ますますハルマの強化につながることに、まだ気づいていなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る