第1章 虚ろの体
Ver.2/第1話
10月も半ばを過ぎているというのに、いつまでも続いていた日中の残暑もやっと陰りを見せ、ようやく秋の気配が色濃くなってきた。
「なあ? どうやったら珍しいスキル、見つけられるんだ?」
学校からの帰り道、チップは返ってくる答えは知っていながらも親友に尋ねていた。
彼が把握しているだけでも、ハルマの取得しているものの中でユニークスキルに近い、取得条件をクリアするのが難しいレアものは〈手品〉のEXスキルである〈傀儡〉〈心眼〉〈修復〉〈二刀流〉〈離れ技〉と、常人では考えられないほど豊富である。普通、これらのスキルはサービス終了までに、1つでも取得できれば自慢できる類のものである。これ以外でも、ユニークとまでは言い難いが、珍しいもので〈大工の心得〉〈トラップ解除〉なども取得している。
しかも、前回の〈魔王イベント〉で無敗だったため、報酬でスキルを取得できる権利も、他のどのプレイヤーよりも先に得ているのだ。
これだけでも手に負えないというのに、ハルマの場合、スキルだけでなく、ユニークなNPCまでぞろぞろと付き従っているのだから、何か秘訣があるのではないかと勘繰りたくもなるというものだ。
「珍しいな。チップがそんな分かり切ってること訊いてくるなんて」
「いやー。何か、ふと気になったんだよ」
「前から言ってるだろ? 別に、探して見つけたものじゃないから、わからん、て。俺の方こそ訊きたいくらいだよ」
ハルマとしては、やりたいことをやって、のんびり遊んでいるだけなのだ。
それなのに、どういうわけだか魔王に駆り出され、挙句の果てに不落魔王などと呼ばれるようになっているのは心外だった。
まあ、確かに、イベント中はノリノリで魔王のロールプレーを楽しんでいたのだが……。
「だよなー。そうやって見つけようとするから、見つからないんだろうな」
「何だそれ。人生悟るには、まだ早いぞ?」
「別に人生については語ってねーよ。って、それより、〈魔王イベント〉のスキル、何取ったんだ?」
「あー。あれな……。いやー。それが……、まだ見てない」
「は?」
「いやな。チラッとは確認したんだけど、なんか、数が多くて、ひとつひとつ見ていくの時間がかかりそうだったから、まだ保留してるんだよ」
「そうなの?」
「そうなの」
「マジかー。オレも早く魔王スキル手に入れてー。ってか、どんなスキルあるのか知りてー」
「次の魔王イベントで全勝すればいける!」
「前回と同じ報酬だったらな。って! ハルマと違ってギリギリ潜り込めた順位だったから、次も出られる自信すら今のところねーよ」
「いやー。俺の場合は特殊召喚みたいなもんだからなー。それこそ次はないだろ?」
「おま……。まあ、いいや。次の〈魔王イベント〉は、まだ何カ月か先だろうから、それまでに鍛え直すさ。早くても年明けだろ? たぶん」
すでに、モカとともに大魔王候補の最有力と目されていることなど、知らないままでいいのだろうと伏せておく。チップにとって、ハルマは今のままでいてもらった方が面白いし、張り合いもある。
それに、ハルマが大魔王になって、新しくなるオープニングムービーにメインキャラとして登場するのも見てみたい気もしていた。今のところ、自分がその権利を得る可能性よりは、ハルマが権利を得る可能性の方がはるかに高いのだ。
「年末年始に何かしらイベント挟むだろうから、そうなんじゃね? どっちにしろ、俺はこれまで通り、のんびり生産職やっていくよ」
こうして、ふたりとも家に帰りつくと、すぐにログインするのは習慣となっているのだった。
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