第92話

 チップ達は可能な限り参加を続け、勝率は7割と善戦していた。

 ハルマは誘えなかったものの、腕の良い生産職が見つかり、魔王城のカスタムは自分たちの好みに合わせて造ることができたことが大きかった。

 また、トッププレイヤーとしては知名度が低いこともあり、あまり研究されることがなく、指定がなく、誰でもいいから戦いたいというプレイヤーのためのオートマッチングでやってくる挑戦者が多かったのも勝率の高さに反映されていた。

「さて、最後の挑戦者はどんなプレイヤーだろうな?」

 チップがシュンとアヤネと待ち構えていると、魔王城の仕掛けをくぐり抜けてきたパーティが現れた。


「「「え!?」」」


 3人はそろって声を上げていた。

「ねーちゃん!?」

「ふっふっふ……。姉を差し置いて魔王になるなんて、やってくれるじゃない。大人しく勇者に討伐されなさい!」

「嘘だろぉぉぉぉぉ!!」


 こうして、あまり注目されないところで、姉弟の激しい戦いが火ぶたを落とした少し前、別の魔王城には大勢の注目が集まっていた。


「来たぞ!」

 コロシアムの至る所から期待のこもった声が上がった。

運営も、これまで無敗を続ける魔王の最後の戦いだからと、優先的に観戦させる準備を整え、待ち構えていたのだ。

 映し出されたのは、魔王の待つ間にたどり着いた3人組だ。両手剣戦士、片手剣戦士、ツメ武闘家と、前衛物理職に偏った非常にアンバランスな構成だが、観客からしたら満足できる編成であった。

「あれなら、最低限の戦いはできるんじゃないか?」

「お! あの人知ってる。めっちゃキレッキレの動きする武闘家タイプの人だ」

「オレも、あの片手剣の人知ってるぞ。確か、リアルでもフェンシングやってるとかで、すげー動きが滑らか」

「いけー! 最後くらい魔王を慌てさせてみろー!」

 3人の準備が整ったところで、扉が開かれる。

「くるぞ、くるぞ」

 そして、魔王の間が映された瞬間、それまでプレイヤーを応援する声が多かったのが一変して、コロシアムから大歓声が沸き起こるのだった。

「不落魔王、キターーーー!!」


「ふわーっはっはっは! よくきたな、勇者を目指す愚か者どもよ! ちからを奪われ、それでもなお立ち向かってくる心意気だけは認めてやろう! さあ、かかってくるがいい!」

 待ち構えていたのは、魔術師のローブをまとい、両手に片手剣を握る人物。その片方の剣は肩に担ぎ、残った片方の剣を挑戦者たちに向けて口上を述べる。

 フードで隠れて顔は見えにくいが、そもそもフードの中はスカルヘルムで覆われてしまっているので、骸骨の顔にしか見えず、男性なのかも女性なのかも判別できない。

 それどころか、頭からは山羊を思わせる歪な形状のツノまで生えているのだ。異様な雰囲気を更に強調しているのが、周囲に漂う霧である。それはまるで、魔王が放つ瘴気のように怪しげな結界を生み出していた。

 奇異なのは、目の前の人物だけではなかった。

 この魔王城が他と決定的に違うのが、部屋そのものにあった。

 薄暗い部屋のいたるところに人形やぬいぐるみが飾られているかと思ったら、その一部はフワフワと飛び回っているのだ。その数は20や30ではきかない。

 怪しげな雰囲気と相まって、禍々しさで満ちているのである。


 魔王の呼びかけに、挑戦者達は慎重に近寄っていく。

 過去に一度たりとも、この魔王から先に攻撃を仕掛けてきたことはなかったが、それでも、実際にこの光景を目にすると、足がすくんでしまっていたのである。

「い、いくぞ!」

 にらみ合っていても埒が明かない。

 爪を装備した武闘家タイプのプレイヤーが声を発したのをキッカケに、最後の戦いが始まった。


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