第91話
「よっしゃー! 次のエモノがきたでー!」
魔王城の城門前に、最大人数の120人が押し寄せる。その光景を見下ろし、テゲテゲは号令を出す。
この男、動画配信者として知名度は高いが、プレイヤーとしての腕前はそこそこである。
そんな人物が魔王に選ばれているのは、ひとえに回りの協力があればこそだ。
つまりは、お飾りの魔王なのである。
しかし、そのお飾りも、お飾りであることを自覚した上でなら、旗振り役としての価値は高い。
60人におよぶ幹部と配下はほとんどが彼のファンで固められ、一致団結して魔王テゲテゲを盛り立てる。
残念ながら、魔王イベント中の様子は配信できないが、それでもテゲテゲという魅力的な男のそばで遊べることが楽しかったのだ。
多くの仲間がいるということは、各分野において秀でた人物が混ざるものである。ここにも、戦闘の巧者であったり、作戦立案に秀でた者であったり、築城の博識者であったりと様々な強者がそろっていた。
それもあって、戦果は――最大人数のため回数は少ないが――上々だった。
が、しかし、当の魔王が安定した戦いを嫌った。
本人が素手での戦闘しか行えない――行わない――にもかかわらず、次から次に無理難題を指示するのだ。
そのため、自ら課した制限のせいで負けることも少なくなかったのだが、それでも全員が「いやー、さすがに無茶っすよ!」と、笑って敗戦を受け入れるのだ。
「よーし。今回は最初っから全員で突撃して、おれがひとりで残るぞ!」
開門の前に、突如テゲテゲが宣言する。
「いや、あんた。ひとりだと何もできないでしょ」
幹部のひとりが呆れてみせるが、却下はしない。
「わかってるよー。だから、がんばって全員倒してきて!」
ニカッと笑みを浮かべ、無責任なことを言い放つ。
「しゃーねえ、いくぞ!」
取り巻きのリーダー各が声を上げると、「おう!」という勇ましい声がきれいにそろって返された。
戦略も何もない。
不意打ちに近い怒涛の攻め。
他の魔王城は、毎回、同じような戦略で待ち構えているのだが、ここだけは違う。挑戦者サイドも、それは理解しているのだが、理解が追いつかないこともあるというものだ。
突如として大乱闘の戦場と化した魔王城の一角は、乱戦であればあるほど即席のパーティ連合である挑戦者サイドが不利になっていった。
数の有利を活かす前に、なりふり構わず攻め込んでくるのだから堪ったものではない。最初こそ挑戦者サイドの人数が倍いたのだが、気づけば逆転されていた。
「誰も、来ねえ」
ポツンと魔王の間で待っていたテゲテゲは、最初から用意されている玉座に腰掛け、今か今かと挑戦者を待っていたのだが、いつまで経っても扉が開かれることがない。
そして90分が経過しても、結局、誰もたどり着くことはないのだった。
「うそーん。勝っちゃったの? あいつら、がんばりすぎ……」
釈然としないまま、テゲテゲはニカッと笑みを浮かべるのだった。
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