第11章 魔王城への挑戦 前編

第81話

 世間が〈魔王イベント〉の前編、イベントダンジョン〈魔王迷宮〉への挑戦に意欲を高めている中、ハルマは前回イベントの全体報酬でもらえる羽を入手して自宅でのんびりしていた。追加でもらえる交換チケットはまだ届いていなかったので、まずはマリーのことが最優先だった。

「さて、マリーに付けられるのか?」

 すでに装備品となっているアイテムのため〈陽炎の白糸〉は使用できなかったのだ。そこで、直接付けられるか試してみることにしたのだ。

「お! いける」

「やったー! 羽だよ! 羽! マリーにも天使みたいな羽がついたー! ズキンとおそろいー」

「お似合いですよ」

 ズキンも微笑まし気に眺める。

 白い羽はマリーの体に合うサイズに小さくなってパタパタとご機嫌に動いている。プレイヤーが装着しても動くことはなかったはずだが、その辺はNPCだけの仕様なのであろう。

 マリーが好んで着用している白いワンピースと良く似合い、本当に天使みたいな雰囲気があった。

 と、思ったら……。

「あん?」

 急にアナウンスが表示されたのだ。


『いたずらゴーストが進化して、いたずら天使になりました』

『マリーが、スキル〈天使の気まぐれ〉を取得しました』


「いや。ホントに天使になっちゃったよ……」

 そう思ってマリーを調べてみると、本当に天使になったわけではなく、天使っぽいゴーストという説明だった。ただ、追加されたスキルは気分的な能力ではなく、実用的なものだった。

「職人で起こる〈精霊の気まぐれ〉みたいなものかと思ったら、全然違うのか……。致死ダメージを受けてもHPが1残る? 発動条件は気まぐれ? イタズラの延長にしては助かるスキルだな。まあ、イタズラと同じ確率だとしたら、当てにはならなさそうだけど」

 そうやってお供のNPCたちと戯れていると、家に訪問者がやってきた。

「おーい。入るぞ」

 返事も待たずに入ってきたのはチップ達3人だった。

「キャーッ! なに!? マリーちゃん羽生えてるじゃん! しかも、そっちが新顔のユララちゃんね!」

 挨拶もそこそこに、通常運転のアヤネが興奮してみせる。

「あー、いらっしゃい。どうした?」

「どうしたって、昨日の発表のことでどうしてるかと思ってきたんだよ。そっちこそ、どうするんだよ?」

「ん? 何が?」

「何がって、魔王イベントだよ。あれ、モカさんとハルマだろ?」

 モカの方はすでに認知度が高かったため納得という評価が多かったが、もうひとりの謎のプレイヤーに関しては、一体誰なのかと〈魔王迷宮〉攻略と同じくらい世間をにぎわしているのである。

「チップよ。俺は生産職だぞ? 家で職人やってる魔王なんているか? いや、とっくに使い古された設定としているのは知ってる。でも、ここはMMORPGの世界だぞ?」

「やっぱり出ないつもりだったか……」

「だいたい、〈ゴブリン軍の進撃〉も魔王になりたくてがんばった訳じゃなくて、マリーが付けてる羽が欲しくてがんばっただけだぜ?」

「何がそんなに嫌なのよ? 名誉なことじゃない。こっちは全力でランクイン目指そうとしてるのに、もったいない」

 ズキン以外の人外達と戯れていたかと思ったら、アヤネが不思議そうに訊いてくる。

「そもそも、魔王になったチップ達をサポートするために生産職選んだんだぞ? 本末転倒もいいところじゃないか」

「まあ、そうだろうけど、こっちから生産職になってくれって頼んだわけじゃないんだ。オレ達に気を使う必要はないんだぜ?」

「うーん。ハルマ君。なんだかんだいって、目立つのが嫌なんじゃない? だったら、出てもハルマ君だって気づかれないようにすればイイんじゃないかな?」

「ん? どうやって?」

 シュンの提案に、少し心を動かされる。

 確かに、悪目立ちして普段のプレーに支障が出るのは嫌だった。

「なんか、こう、姿を変えちゃうとか?」

「姿を変えても、ハルマの場合ラフやらズキンねえさんがいるから、バレるんじゃね?」

「じゃあ、ズキンに影武者させて、ハル君は影から見守るだけにするとか?」

「それだ!?」

 ビシッとアヤネに親指を突き出す。

「いや、ダメだろ」

「「えー。ダメなの?」」

「まあ、なんにせよ。ハルマも出る気が全くないわけじゃないことがわかっただけでも良かったよ。まだ後編まではしばらく時間があるんだ。後編のルールが発表されてからでも、決めるのは遅くないんじゃないか?」

「んー、そうだな。もう少し考えてみるよ」

 こうしてチップ達は、〈魔王迷宮〉攻略のために更なるレベルアップを目指して出ていくのだった。

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