第82話

 魔王イベントに対して、流れ弾のように参加権が与えられたものの、乗り気ではなかったハルマも少しだけ気持ちが変わっていた。

 シュンの提案は、一考に値するものだったからだ。

「基本的に、顔を隠せばバレないか?」

 見た目だけではNPCとPCの区別も難しいほどの世界なのだ。その気になれば何とか誤魔化せそうな気はしてきた。

 体型に特徴はない。普段は弓を使っているので〈二刀流〉で暴れても問題はないだろう。ただ、まだ髪型の変更であるとか、顔つきの変更は行えるようになっておらず、フルプレート系の顔を覆うタイプの兜でなければ、顔を隠すことはできないはずである。

「探せば、甲冑系以外にも何かあるかな?」

 しかし、そうなると最大の難点が、自分よりも目立つ存在が何人もいることであり、本人よりも魔王的な強さを持っていることにあった。

「せっかく出るなら、みっともない戦いは見せられないもんなぁ。そうなると、ズキンもラフも使わないわけにはいかないだろ?」

 ジレンマである。

「んー。チップの言う通り、ルールがわかってから決めるかな? とりあえず〈魔王迷宮〉に挑戦する必要もないし、長らくやれてなかったことやるか」

 せっかくの週末である。

 気分を切り替えて出かけることにした。


 強くなることに興味がないわけではなかったが、積極的に行動することはなかった。そうでなければ最初からDEXに極振りすることはないし、生産職を目指すこともなかったはずである。

 この日も、ハルマが向かったのはスライム狩りだった。

 ズキンと出会う前に試そうと思っていた紙の錬金が、ようやく試せる頃合いになってきたのである。

 あれからひと月ほども経っていることもあり、さすがにMPポーションの価格も落ち着いている。更に、紙の質が向上し、MPポーションの性能もハルマのドレイン製には及ばないものの、以前の倍近くは回復できるようになっていた。

 スライムを狩れる地域も増え、プレイヤーも分散し、金策で込み合うことも減っている。

 混雑を避けていたことと、〈ゴブリン軍の進撃〉の準備に追われていたこと、それに加えてイベントが終わった後は、ガード率特化の装備を作るのに没頭していたこともあり、本当に久しぶりな感覚だった。

 ハルマは弓を使ってスライム系の最弱モンスターを狩っていく。

 スライムが相手では、二刀流で戦う方が不便だからである。

 のんびりとスライム粘液を集めた後は、戻って紙の錬金に移る。

 紙の錬金には3つの素材が必要になる。枝系素材、水系素材、スライム粘液である。MPポーションが出始めた頃は、枝系の素材も水系の素材もFランクのものしか採取できなかったが、今は安定してEランクの素材が手に入るようになっていた。これには〈発見〉のスキルを取得したプレイヤーの増加が理由に上げられるだろう。

 では、すでに〈発見〉のスキルもⅤにまで成長しているハルマであったらどうなるか……。

 実は、さほど違いはなかった。

 というのも、行ける範囲が限られているため、スキルに見合った採取場所が見つからないのである。チップ達の進んでいるエリアには追いついているので、現状Dランクの採取ポイントが限界のようだった。

「よし、できた。これで何か折り紙したら、スキル取得できるんだっけ? 折り鶴でいいのかな?」

 これは、〈ゴブリン軍の進撃〉の合間にスズコの友人であるミコトに教えてもらった情報だ。

 ハルマはうろ覚えの記憶を頼りに折っていく。

 そうして鶴が完成すると、アナウンスが表示された。


『スキル〈折り紙〉を取得しました』

『紙を使い、折り紙ができます。DEXによって、作れる種類は変化』

【取得条件/特定の伝統的な折り紙を折る】


「うわ。なんだ、これ!? こんなの折り紙で作れるの?」

 覚えたばかりのスキルを確認してみると、想像以上に多くの種類が登録されていたのである。当然、それだけの数が作れるのは、ハルマのDEXがあればこそである。

「四足歩行の猛獣ともなると、もはやフィギュアの領域だな。ドラゴンになると、別世界じゃん」

 完成図も合わせて見ることができたため、一覧を眺めているだけでも心躍るものがあった。

「ドラゴン作ってみたいなあ。リアルだとまず無理だもんなー。どうせなら、上質な紙使って大きいの作りたいな」

 ハルマは当初の目的も忘れ、インベントリの中を調べ始めるのだった。

 

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