第67話

 ゴブリンロードは通常、5人以上のパーティでなければ勝利することは難しいといわれる難敵である。

 解放済みのエリアの中ではトップクラスの強さを持ち、フィールドで見かけても嫌厭されることの方が多い。

 しかも、通常フィールドの場合、単体でしか出現しないのに、である。


 城門を破壊されても、制限時間が残り15分を切っていれば実質勝利である。

 そのためにも、残り7分持ち堪えなければならない。

「残り7分か……。MP持つか?」

 これまで我慢に我慢を重ね、ズキンにもラフにもMPは使わせなかった。ゴブリン達のペースを落とすために、トワネには魔法をバンバン使わせていたため、こちらの残りMPはわずかである。

「ロードは温存して勝てる相手じゃないよ! うちは槍主体の攻撃だから、あんまり範囲技ないんだけど、ハルちゃんの方は何かない!?」

「いちおうズキンが範囲魔法使えます!」

 ズキンはレベル80設定のため、各ステータスは普通のプレイヤーよりも遥かに高い。しかも、カラス天狗の固有スキルと思われるものもいくつか取得していた。

 ただ、ステータスを見てみるとAGIがかなり高めに設定されており、本来は戦闘要員というよりは、斥候系のキャラであることが窺える。

「ズキン! 思い切りやってくれ!」

 ハルマの言葉を皮切りに、ズキンの攻撃は猛威を振るった。

 つむじ風と石つぶての2種類しか今のところ使えないが、AGIの次に高いのがINTなだけあり、ゴブリン軍は見る見るうちに数を減らしていく。

 つむじ風は〈天狗のうちわ〉と言うアイテムを使ったスキルのため、威力は初級の風魔法程度しかないが、石つぶての方は土属性の多段攻撃魔法のため効果が大きかった。

 それでも、ゴブリンハット以上の個体になると倒し切るには至らない。

 幸い、指揮官たるゴブリンロードの数は少なく、見える限り3体しか確認できなかった。いずれも直接前線で戦う気配は見られず、大隊の指揮に専念しているらしい。

 と、思っていたら、数を減らしたゴブリン軍は隊列を組み始めた。

「うひゃー。壮観だね」

 モカはデュラハン状態のため、この機敏な動きを高い視点から眺めていた。

 ゴブリンソードがきれいな列を作り、足並みをそろえて進軍してきたのである。

 ザッザッザッと規則正しく発せられる足音は、威圧感があった。

 ゴブリンソードの高い防御力に守られ、ズキンの石つぶても後続のゴブリン達に届かなくなってしまった。

 ズキン以外のメンバーは物理攻撃が主体のため、こちらもゴブリンソードの壁に難儀していた。

「何かないか? 俺の攻撃力じゃ、あの壁は崩せないぞ」

 ズキンとモカのおかげで耐えている中、ハルマは使えるトラップでもないかと探していた。

 その時、作ったはいいが使ったことのないアイテムを見つけていた。

「あー。演芸用のアイテムだけど、弓よりはダメージ出せるか? DEX依存で威力上がるらしいから、試してみるか」

〈手品Ⅱ〉で教えてもらったファイアーブレスというものだった。

 いわゆる、火吹き芸である。

 手品スキルはMPを消費することはないが、アイテムを消耗する。コインマジックであったりカードマジックだったりで、プレイヤー同士で楽しむことが主な目的のスキルのため、威力は期待できない。


 ……はず、だった。


「わお!」

 モカは突然のことに、驚きを隠さなかった。

 突如、巨大な炎が隊列を組んで迫ってくるゴブリンソードの軍勢を焼き払ったのだ。その威力はもはや、魔法の専門職が使う範囲魔法と遜色ないものだったのである。

 一瞬、援軍が駆けつけてくれたのかと思ったほどだ。

 使った本人も、ポカンと惚けている中、ズキンが寄ってきた。

「旦那様。火属性の魔法が使えたんですね。早く言ってくださいな」

「え!? いや。これ、魔法じゃないんだけど……」

「そうなんですか? まあ、かまいません。もう一度お願いします」

 ハルマにはなんのことだかわからなかったが、言われた通りに再びファイアーブレスを使う。

 ズキンはそれに合わせて、〈天狗のうちわ〉で風を起こす。

「そーれぇ!」

 ズキンの起こしたつむじ風は、ハルマの吐き出した炎の威力を後押しするように強化した。

 ハルマも初めて知ったのだが、〈天狗のうちわ〉は風の属性攻撃を起こす効果と同時に、火の属性魔法の威力を高める効果も持っていたのだ。

 ファイアーブレスは消費MPゼロであり、ズキンのつむじ風も消費MPは少ない。

 この合わせ技によって頑強だったゴブリンソードの隊列は、壊滅的なダメージを受け、残すゴブリン軍の主力はゴブリンロードだけとなっていた。

「ここまできたら、守り切るより倒し切っちゃった方が気持ち良さそうだね!」

 モカは首のない馬を走らせ、ゴブリンロードへと全力で突進していく。

 脇に挟んだ長槍によって、進路上にいたゴブリン達は無残にも串刺しにされ、吹き飛ばされ、消滅していく。

 そうやってゴブリンロードの直前にまで迫ったところで、最大火力と思われるスキルを発動させていた。これまで使わなかったのは、おそらく、リキャストタイムが長いため、頻繁には使えないからだろう。

「はあっ! 〈疾走神風〉」

 AGIをATKに上乗せする一点集中タイプの大技が、ゴブリンロードの体を穿ち、吹き飛ばした。槍によるダメージだけでなく、体当たりもダメージ判定が入るらしく、ゴブリンロードは2段階の大ダメージを受けて消失していった。

「え、えええ……」

 ゴブリンロードを一発で撃沈させるとは思っていなかっただけに、呆れるやら慄くやら、妙な声を発してしまっていた。

 指揮官の1体が消えたことにより、形勢は大きくこちら側に傾いた。

 残りのゴブリンロードのうち1体は、最後の最後でバーサクモードに入ったラフに飲み込まれ、ごっそりデバフと状態異常を受けた後で吹き飛ばされ、最後の1体は総攻撃によって、何とか撃破することに成功したのである。


 そうして制限時間が15分を切ったタイミングで、ぴたりとゴブリン軍のポップは止まったのだった。

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