第68話
「守り切った? よね?」
モカは次なる襲撃がないことを確認してから〈デュラハン〉を解いて元の姿に戻ると、大きく息を吐き出した。
城門がこの後破壊されたとしても、15分を過ぎることはないため、結界装置さえ壊されなければ防衛成功となる。
そして、結界装置を守り抜くことは多少ゴブリンの数が増えたとしても、そう難しいことではない。
「何とかなるもんですね」
ハルマもぐったりしながら、その場にしゃがみ込む。アバターの体が疲労を感じることもないのだが、緊張感から解放され、無意識のうちに行動に出てしまったのである。
ふたりして充実した達成感に包まれていたが、拠点の中から声が聞こえ始めた。
「あれ? ホントに城門が残ってる」
「どうなってんだ? うわっ!? なんだ、これ? トラップ?」
ようやく異変に気づいたプレイヤーがポツリポツリと戻り始めたようである。
「結界装置の防衛は、任せても大丈夫そうですね」
ハルマは城門の向こうから聞こえてくる声が少しずつ増えていくのを感じると、ようやくこのサーバーから出ることにした。
「凱旋はしないの?」
「それは、モカさんにお任せしますよ」
「ハハハ……。うちも遠慮しとく」
「じゃあ、さっさと逃げますか」
「おっけー。また遊ぼ」
「はい。ぜひ」
そういって、ふたりの英雄とそのお供は、誰にも見つからないうちにその場から消えてしまったのだった。
直後、当然のことながら大騒動になった。
何せ、失敗に終わったと思っていたら、成功を祝うアナウンスが全プレイヤーに届けられたのだ。
不具合が起こったのではないか、不正が行われたのではないか、運営が設定間違えたのを誤魔化したのではないか、失敗した時のアナウンスを用意していなかったのではないかと、あれやこれやと議論されることになる。
どちらかと言えば、ネガティブな意見の方が強さを増していく中、風向きが変わる発見があった。
「あれ? 知らん間にルールが追加されてるぞ?」
細かい部分をチェックするプレイヤーは少ないが、確実に存在する。
そんなプレイヤーのひとりが、イベント中に〈修復〉のスキルを誰かが取得したことに気づいたのである。
『〈修復〉のスキルを取得したプレイヤーの出現により、公式イベント〈ゴブリン軍の進撃〉に新たなルールが追加されました。城門を〈修復〉しても、イベントの残り時間が30分に満たない場合、〈修復〉は失敗となります』
ハルマにだけ直接届けられたアナウンスは、多少のタイムラグはあったもののしっかりと公式サイトに追記されていたのだ。
この情報が拡散されることで、今回のイベントには隠し要素が用意されていたことに初めて気づかされたのである。
これに対するプレイヤーの反応は様々だった。批判半分、賞賛半分といったところだろうか。ただ、批判の大半は、要約すると自分が見つけられなかったことに対する嫉妬であった。
城門が突如復活した謎は解けた。
では、その後、どうなったかといえば「誰が?」に、話題は移る。
そして、そこに一石を投じる目撃者が現れた。
彼女は新規プレイヤーだったためイベントに興味はなかったのだが、最後くらいは見学に行ってみようと突如思い立った。初めてのイベントで、まさか大失敗に終わっているとは露ほどにも思っていなかったのだ。
そのため、イベントサイトで状況を確認することもなく、表示されているサーバーの状況も気に留めず、入れるサーバーにただ向かった。
しかし、着いてみると、何やら様子がおかしいことにさすがに気づいたのである。他に誰もプレイヤーがいないのだから、気づかない方がどうかしている。
そうやって彼女は、気味の悪い空間を歩き出した。
拠点の中に入り込んでいるゴブリンの群れはしかし、勝手にHPを吸われ、結界装置の近くのまきびしを踏んで消えていく。
何が起こっているのか益々わけがわからなくなる中、彼女は周囲を見渡してみようと城壁の上を目指した。
そうして歩き続けていると、激しい戦いの喧騒が聞こえてきたのだ。
「見たこともない数のゴブリンの大軍勢と戦ってたのは、首のない馬に乗った首のない騎士と、黒い羽を生やした女性、猫の姿をした小柄なプレイヤーでした」
この目撃情報により、ひとりはモカであると特定されたが、残りのプレイヤーは謎に包まれることになる。
加えて、モカの〈デュラハン〉以外にも変身系のスキルが見つかってるのかと、騒然となるのだった。
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