第9章 ゴブリン軍の進撃

第58話

 Greenhorn-onlineの初めてのイベントが始まった。

 とはいえ、前編はその準備段階に当たるものだった。

 この2週間後に開催が告知されている後編の大規模防衛戦こそ、メインイベントだ。イベント専用に用意された30のサーバー。その拠点に襲い続けるモンスターを3日間にわたってプレイヤー総出で阻止する戦いとなる。

 当然のことながら、3日間フルで参加する必要はない。むしろ、参加したらこの運営のことなので、どんなペナルティスキルを押し付けてくるかわかったものではないと、すでに多くのプレイヤーに周知されている。

 襲ってくるモンスターは、ゴブリン、ホブゴブリン、ゴブリンハット、ゴブリンソード、ゴブリンロードの5種類に限られ、順に強さを増す。

 これらのモンスター、すでにプレイヤーによって解放されているエリアで見かけるモンスターばかりで、強さにも調整は入らないらしいが、集団ならではの戦い方はしてくるとのことだった。

 ゴブリン達を倒すと、強さに応じて銅貨か銀貨を獲得できる。銅貨10枚を銀貨1枚に、銀貨10枚を金貨1枚に交換でき、イベント終了後、報酬アイテムと交換が可能だった。余った硬貨も、種類によってゴールドと交換が可能である。

 今回の目玉は、金貨10枚で交換できる蘇生薬である。また、金貨3枚と交換できる30分間獲得経験値が+100%になるアイテム、振り分けたステータスポイントを1だけだが振り直せるイベント限定アイテムも話題を呼んでいた。

 また、これとは別に、拠点の防衛に成功したら、防衛した拠点の数に応じて全体報酬のユニーク装備も用意されているとのことだった。ただ、このユニーク装備に特別な能力はなく、課金装備と同じ見た目だけのものであるという。


 2週間後に焦点を絞っているプレイヤーが大部分であったが、ハルマのように戦闘には不向きなプレイヤーにとっては、前編の方がメインイベントである。

 各地に通常の素材アイテムとは別に、イベント専用素材アイテムが配置され、集めて納品することでゴールドなどの報酬が獲得できるのだ。

 また、プレイヤー全体で集めた素材の総数によって、段階的に後編へのボーナス――拠点エリアの城門の耐久度+5%であるとか、プレイヤーのDFE値が+2%であるとか――が用意されており、ノルマをクリアするために戦闘系のプレイヤーも普段は行わない採取活動に励んでいた。これらの素材には、イベント限定のモンスターからのドロップアイテムもあるので、レベルアップのペースが大幅に落ちてきている最前線のプレイヤーにとっても、気分転換になったらしく、採取と討伐にわかれてゲーム全体が盛り上がりを取り戻していた。

 そして、生産職プレイヤーにとっては、さらなる張り切りポイントがあった。

 後編の防衛戦では、装備品はイベント専用のものを使わなければならないと発表されており、前編の間に納品されたものしか使えないのだ。

 しかも、消費アイテム類も、スキル用のもの以外は使用不可になり、回復アイテムも通常のものは使えない。

 HPの回復はイベント専用のEポーションのみ使用を許される。MPポーションにいたっては、イベント用のものも用意されておらず、拠点での回復を待つしかなくなる。

 唯一の救いは、Eポーションだけは防衛戦が始まってもイベントサーバー内で素材が拾え、用意されている職人設備を使うことで作製、納品が可能である点だろう。これにより、防衛戦中も生産職が参加する意義が生まれる。

 つまり、生産職は空いてる時間があったら、ひたすらイベント用アイテムの作製納品に追われている、ということだ。


 そうやって、イベント後編が迫る中、通常のプレーに加え、イベント用の作業を地道に続けていたハルマのもとに、ひとつのアナウンスが届けられた。


『裁縫職人が〈半人前〉から〈一人前〉にランクアップしました』

『裁縫職人で作れるレシピの、レベル上限が60まで上がりました』

『スキル〈裁縫〉に新しい職人技が追加されました』


「今回は新しいレシピの追加はなしか。他の職人と同じ感じだな」

 他の生産職でもすでにいくつか〈一人前〉になっていたこともあり、そろそろ上がると思っていたので驚きはなかった。

 しかし、続いて表示されたアナウンスには、眉がぴんと跳ね上がった。  


『スキル〈よくばり職人〉を取得しました』

『全ての職人スキルで作製時間が50%短縮される』

『DEXが常時150増える』

【取得条件/5つ以上の職人で〈一人前〉になる】


 こうして、第1回大規模防衛戦〈ゴブリン軍の進撃〉が始まるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る