第32話

 ハルマは一度調合設備をインベントリに仕舞い、空いたスペースに木工設備を置く。今度はラフの修理をしなければならないからだ。

 木工作業台の上にラフを乗せると、破損の状況がすぐに表示された。

「これなら、〈木工〉だけで大丈夫そうだな」

 思ったよりも軽微なものだったらしく、ホッとする。修理できないレベルの破損だったら非常に困るからだ。

 今のプレースタイルに、ラフは欠かせない存在なのである。


「なあ、トワネ。トワネはどんなことができるんだ?」

 木材を削りながら、何の気なしに尋ねる。

「そうですねえ。基本的に蜘蛛ができることは一通り。あと、体のサイズは比較的自由に変えられますね。それに、戦闘はあまり得意ではありませんが、戦えることは戦えますよ? ですが、ジャアクビー相手でも逃げ出さなければならないほど力を失っていますので、期待しない方がいいです。補助的な魔法が使えるくらいでしょうか。あ、そうそう、元の大きさでしたら、4人くらいまでなら乗せて走れると思います」

 最後に、とってつけたように語られた内容に、思わず力加減が狂い手元の材料を消失させてしまった。

「乗れるの!?」

「はい。あまり早くは走れませんけど、ハルマ殿よりは早く走れると思いますよ?」

 どうぐメニューを開き、〈トワネ〉を選択する。

 確かに、ハルマよりもAGIは高かった。というか、DEX以外は全てにおいてトワネの方が上である。

「こいつ、俺が助ける必要なかったんじゃないのか?」

 先ほどは、名前を付けただけで内容を確認していなかったため、改めて目を通す。というか、確認できることを今知ったのであるが……。

「〈糸吐き〉〈壁移動〉は、蜘蛛本来の能力ってところか。戦闘系で使えるのは、本当にデバフ系と状態異常系の魔法だけだな。武器も防具も装備できない。あとは、〈小型化〉のスキルがあるくらいか。体のサイズを自由に変えられるって、部分的にもできるのか?」

「????」

「ああ。伝わらなかったか。足だけとか、胴体だけとかできるのか? って、訊いたんだ」

「そういうことでしたか。できると思いますよ」

 トワネの答えを聞いて、何かが閃いた。

「じゃあ、今の肩乗りサイズから、足だけ元のサイズになってみてくれよ」

「わかりました。やってみます」

 そういうと、トワネは足のサイズだけを元に戻していく。すると、極端に足長の蜘蛛へと変化した。

「足のサイズに合わせて、本体も少し大きくなるのは許容範囲だな。もう少し足を小さくできるか? 俺の腕と同じくらい」

「少し待ってくださいね」

 ハルマの要求に、素直に応えてくれる。

「よし! トワネ。その状態で俺の背中張り付いてみてくれ。できれば、手足はできるだけ自由に動かせると面白い」

「このまま、張り付くのですね」

 トワネはハルマの意図が理解できない様子だが、何をすればいいのかは明確なために実行する。

「ギャー!! なにそれ! なにそれ!? ハルマの手が増えたー! おっかしいのー」

 歪な形状のトワネを背負った状態になり、トワネの8本ある手足の内、2本の腕でハルマの胴体にしがみつき、残りの6本がハルマの背中から生えているようになったのだ。

 ハルマは鏡がない代わりに、スクリーンショットのカメラを自分に向けることでチェックする。

「おお! 良い感じ! トワネ、このまま手足を動かせるか?」

「大丈夫ですよ」

 トワネの言葉通り、わしゃわしゃと手足が自立して動き出す。

 その姿を見てハルマはマリーと一緒になって笑い出す。

「よし。これを阿修羅モード、いや、阿修羅は6本腕だから、8本だと何だっけ? えーと、あれだ! 弁財天か。あー、でも、なんかイメージと違うから、阿修羅モードでいいか。くそー。トワネが武器装備できないのが惜しいなあ。アイテムくらいは使えるのか?」

「そうですねえ。指示してもらえたら使えますよ」

「うん。じゃあ、そのうち面白いことができるかもな。それまでは戦闘中は補助に徹してくれ」

「わかりました」

 トワネの、というよりも、ハルマの新たな可能性が広がったところで、再びラフの修理作業に戻る。

 今度は脇目もふらずに、しっかりと終わらせるのだった。

 しかし、この時、ハルマは大事なことを見逃していることに気づいていなかった。


【風の大陸の森の神との盟約/常時風属性耐性+40% 常時土属性耐性+20%】

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