第6話

「ポーションはすんなり作れたんだ。水系素材のチョイスが間違ってるとも思えないんだよなー」

 HP回復用のポーションとMP回復用のMPポーションのレシピは、ほぼ同じだった。違いは、アルヒ草を使うか、マギアのつぼみを使うかだけだ。

 ポーションはアルヒ草を水系素材である朝露の雫で煮て、アルヒ草を取り除いたら完成という単純なものだった。

 もっとも効果の低いものでHPを20回復できる。

 煮る時間によって効果も変化し、沸騰する直前でアルヒ草を取り出すと効果がもっとも高く25回復するようになり、アルヒ草を刻んで煮ると更に効果が少し上がり、最大で30回復できるものとなった。それでも回復魔法の最低レベルほどの回復量しかない。

 MPポーションも同じように作ってみたが、何の効果もない液体になるだけで失敗してしまっていた。

「水系素材を使うってことは、煮るか、漬けるかしかないと思うんだけどなぁ……。手順に問題があるとしても、俺だけじゃなくて他のプレイヤーも作れてないってことは、そういうことじゃなんだろうか。手順が問題じゃないのかな?」

 行き詰ったハルマは、気分転換に町中をぶらつくことにしていた。

 どこかにヒントがあるかもしれないという思惑も、ないわけではなかった。


 一度ウィンドレッドの町に移動し、錬金でMPを使い切ってから散策を始めた。

「ん? あれは?」

 町に並ぶ素材屋や道具屋といった施設をめぐってみたものの、これといって収穫もないまま人気のない路地裏に差し掛かったところで、怪しげなカフェが目に入った。

 オープンテラスのおしゃれな造りで、店そのものにおかしなところはないのだが、そこでくつろぐ老齢と思しきNPCの方に問題があった。

 シルクハットに真っ白なチョビ髭、目元を隠すマスクと全身を覆うマントといった、いかにもな怪しさ満点だったのである。

 気になって近寄ってみると、NPCの方から話しかけてきた。

「おや? あなたはなかなか見どころがありそうですね。どうでしょう? 私の弟子になってみませんか?」

「はい?」

 突然のことに困惑していると、視界の中にアナウンスが表示された。

「ああ、クエストなのか。なになに?」


『クエスト/手品師への誘い』

【クエスト達成報酬/スキル〈手品Ⅰ〉を取得】


「こんなクエストの情報あったかな? いや、まあ、そもそも情報をあんまり集めてないから知らんけど……。面白そうだからやってみるか」

 魔法のある世界で手品ってどうなの? とは思ったが、単純に面白そう。そんな気持ちだったが、実はこのクエストを発生させるには、DEXが120以上必要であり、ハルマだから受けることができたことをまだ彼は知らない。

「おお!! すばらしい。私の名はダイバー。それでは……。おや、何てことだ! 私のカバンがない! 誰かに盗まれてしまったみたいだ! これでは君に教えるどころではない! すまないが、見つけるのを手伝ってもらえないだろうか!?」

「ずいぶんうっかり屋な手品師だな、おい。商売道具を簡単に盗まれるなよ」

 辛辣な言葉を口にはするが、クエスト受注の確認ボタンはイエスを選択する。

「ありがとう! このカフェに来るまでは確かにあったんです。店員にそれとなく聞いてみてもらえませんか?」

「町中で完結する系のクエストだったら戦闘もないかな? いや、取り返すために泥棒相手に戦うのは鉄板展開だから、戦闘があると思っていた方がいいか?」

 経験から今後の展開を予想しながら、言われた通り店内で新聞を読んでくつろいでいたマスターに聞き込みに向かった。

「ん? カバンが盗まれた? うーん。あれだけ目立つお客さんだから、誰かが近寄ってきたら私も気づくと思うけどねえ。あなた以外に近寄った人はいなかったと思うよ?」

「そうですか」

 収穫なしかと立ち去ろうとすると、何かを思い出したようにマスターは台詞を続けてきた。

「いや、待てよ? 誰にも気づかれずに物を盗むっていったら〈いたずらゴースト〉かもしれないな。この町の墓地の近くに教会跡がある。行ってみたらどうだ?」

「ああ……。そうですかー。ありがとうございます」

 これは、戦闘があるなと肩を落とすのだった。

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