7月
葉野赤
7月
ゆっくり雨を見ていた。家に帰って、リビングの縁側で、庭の中に降ってくる雨をゆっくり見ていた。それは楽しみながら、とか、のんびり、とかのゆっくりではなくて、ただゆっくりとしか表しようがないゆっくりだ。ゆっくり雨を見ていた。今日はそうしようとかではなくて、ふと、さっき帰ってきてお茶を飲んで少しおやつを食べたら、そうする自分になったのだ。どっちかといえば、わたしは、雨なんて、という感じなのに、今はそうしていた。そうするわたしだった、そうするわたしと雨だった。全部そうでしかなかった。
うちの小さい庭には、種類はよくしらない灌木が数本と、ほどほどの大きさの睡蓮鉢のビオトープがある。地面は少しの芝生と黒っぽい土で、それらはうちのおじいさんが主にととのえたものだ。でも、あまりはっきりと意識したことはなかった。家があってそこに庭があるということはもちろん小さな頃からわかっていたよ。そこに灌木と水があるということを意識しなかったのだ。でも、この雨が降りおちてくる中では、そこにはっきりとそれたちがあるということがわかった。だって、葉は雨粒で揺れるし、赤い花弁だってそうだ。睡蓮鉢なんてものは、もっとひどい。たたえられた水の波紋、波紋、波紋。それをゆっくり見つめている。でもそれが生き生きと見えるとか、そんな見方や考え方みたいなのは心底どうでもいいものだ。だってほら、実際いまのわたしは別におもしろくもないし、むしろひどく退屈だ。それはまちがいがなかった。わたしと、わたしの退屈と、雨の庭があって。いや、わたしの退屈のなかに雨の庭も入っているのかな?それともその逆なのかな。わたしが世界を入れているのか、世界がわたしを入れているのか。わたしはやっぱりおもしろくはないけれども少しおかしいなと思った。ぽつぽつと流れるように浮かんでくる考えと、考えるその一瞬のあとにそれをどうでもいいという意識がわいてくるのだ。それはちょうど雨粒がおちてくるけれどつぎつぎすぐに地面にぶつかって形をなくするのと同じような感じだね。
そうして、わたしの目からは涙が出ていた。いつからか次から次へと流れ出ていた。わたしはきづいたときに小さくあれっとささやいたけどそれは条件反射みたいな言葉でしかなくってほんとうはなにもふしぎだと思っていなかった。
わたしは、わたしが何を思っているのかはわたしをふくめて世界のだれひとりにもわかることはないだろうと思った。そしてそれを本当にちっともさみしいことだと思わなかった。
7月 葉野赤 @hanoaka
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