第十四話 陸くんと陽菜が中学生になりました

 季節はいよいよ春本番。お花見に行った河津桜はもう散ったけど、染井吉野ソメイヨシノが今は満開だ。今年は少し遅めの開花だったらしいが、あたいにとっては嬉しい出来事が重なる結果となった。


 ぽかぽか陽気のある晴れた日、 陸くんと陽菜は中学生になった。二人は地元の私立中学(共学)へと一緒に進んだのだ。


 入学式の前日、陽菜が新田家に自分の制服姿を見せびらかしに来た。学校へ行く時に着る服は”制服”と言うらしいが、これを着ただけでも少し大人びて見える。


 陸くんと陽菜が着るのは濃紺のうこんえりやポケットにラインが入るブレザー。うん、大きなイニシャル入りの金色ボタンが目立つね。陸くんはズボン。陽菜はリボン、細いヒダが入ったスカート姿だ。あたいの贔屓目ひいきめだけど、二人ともよく似合っているわん。


 お父さんとお母さんは今日の入学式に出席するため、中学校へと出かけている。そんな訳であたいは朝からひとりで自宅警備中。でも日差しがぽかぽかなので丸くなって寝てしまっている。


 午後になるとみんなが帰ってきたので、マンション近くにある満開の桜の下で、あたいと結衣ちゃんも入って家族全員で記念パシャをした。


 会話を盗み聞きすると、陸くんと陽菜の二人は無事同じクラスになれたらしい。こんなところでもヒメ神様の神通力が影響しているのかしら……?


 今日は少し大人びた、陸くんと陽菜の二人と一緒にお散歩。途中で出会った近所のにゃんこ、フクにも挨拶する。


「ワォン(フ~ク~、久しぶりだわん)」

「ニャーゴ(ももも元気だったかにゃ)」


 フクはいつもご飯でお世話になっている陽菜に近づいてゴロゴロ甘えている。野良猫なのに、飼い猫のようになついているね。


 その後、あたいはヒメ神社までハァハァ言いつつ、陸くんをぐいぐいと引っ張っていく。もちろん陽菜も一緒に付いてくる。


 神社境内の一の鳥居、二の鳥居をお辞儀じぎしながらくぐり、まずは手水(お清めのお水)で前足を濡らす。うん、ひんやりしてるね。そしてお口でゴクゴク……ゴックン。あっ、いけない。すすがないで飲んじゃった! その後、拝殿前であたいはいつも通りお参りしつつ、ヒメ神様へお礼を伝える。


「ヒメ神様、陸くんと陽菜が無事同じクラスになれました! ありがとうございます」


 この時期、緑の丘は田植えや畑の種まきなどの農業イベントが目白押し。そのため”復縁”だけでなく、五穀豊穣ごこくほうじょうの神通力を持つヒメ神様は、緑の丘のあちこちを忙しく飛び回られているので、今はご不在だった。


 陽菜と陸くんは無事中学生になれたことをヒメ神様へ報告している。


「ヒメ神様、あたしたちもいよいよ中学生になりました! 勉強や運動を頑張れますようにいつも見守っていて下さい⋯⋯(あと陸と同じクラスになれました!)」

「俺も同じく頑張ります‼⋯⋯(陽菜と同じクラスになれた!)」


 二人の中学校へは一緒についていけないあたいとしては、少々不安な気持ちもあるのだが、ヒメ神様の御力を信じてこれからも二人を応援していこうと思う。もちろん善行も頑張るね!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る