幼馴染みに振られて日々を無気力に過ごしていた俺は、気付けば学校の巨乳な美少女たちにモテモテになっていました

あまかみ唯

一章

01.幼馴染み、ラブレター

「いつまで寝てるのよ」


と、頭をポカンと叩かれて意識が覚醒する。


机から頭をあげると周りには俺の頭を叩いた本人の姿しかなく、眠る前に教室に溢れていたクラスメイトたちは一人も居なかった。


窓の外へ視線を向けるとオレンジ色の夕日が目に刺さる。


その刺激に目を細め、前方の黒板の上に設置されている時計を見ると六時をとっくに過ぎていた。


夏の初めのこの時期は、これくらいの時間が一番過ごしやすい、なんて寝過ごした言い訳にはならないけど。


「目、覚めた?」


聞かれて声の主へ視線を向けると、そこにはショートカットの髪を揺らした幼馴染が立っている。


いや、最初に叩かれた時点で誰かはわかってたんだけど。


そらは人の教室でなにやってるんだ?」


「あんたを起こしに来たに決まってるでしょ。ほら、帰るわよ」


立ち上がるように促されて一瞬抵抗を試みようかと考えて、結局素直に立ち上がる。


机の中から教科書と筆記用具をバッグに仕舞い、ついでにプリントも突っ込んでファスナーを閉めた。


「眠い……」


「そもそもなんで教室で寝てたのよ?」


椅子を引いて立ち上がり、バッグを左手に下げて紙の重さを感じながら答える。


「ホームルーム終わったら眠くなったから、ちょっと寝てた」


本当にちょっと寝るだけのつもりだったのに結果はご覧の有り様である。


クラスメイトが誰もいなくなるまで起こしてくれなかったという事実に心が折れそう。


いやでもそれは、俺に友達がいないんじゃなく、気持ち良さそうに寝ている姿を見て起こさない心優しい友達ばかりなのだと思いたい。


「帰るか」


自己弁論するのも空しくなって、空と並んで教室を出る。


かけるは今日の予定は?」


「帰って飯食って風呂入って寝る」


あとオナニー。


「ちゃんと勉強もしなきゃダメよ」


「気が向いたらな」


やる気がないのがバレバレな返事をすると、空が困ったような怒ったような微妙な表情を浮かべる。


「昔は翔の方がテストの点良かったのに」


「いつの話だよ」


「中学の頃」


「そんな昔のことは覚えてないな」


十で神童、十五で才子、二十歳過ぎればただの人、ってやつだ。


まあ神童って言われるほど才気に溢れていた訳でもないけど。


「暇なら部活でもやったら?」


「興味なーし」


それに高二の夏にもなって、今更部活なんて入る気にもならない。


「それならやっぱり勉強くらいちゃんとしなさいよ。あとで見に行くからね」


あとで、というのは家に帰ってから、という意味だ。


家が隣同士の俺と空は親の代から親しくしていて、夕食後でもお互いの家を自然に行ったり来たりするくらいの関係だったりする。


まあ主に来るのは空で、俺は用事がなければ行かないんだけど。




誰もいない廊下を抜け、階段を降り、昇降口に到着する。


「あっ」


空が下駄箱を開けると、封筒が一通はらりと落ちた。


「またラブレターか?」


「どうかしら、果たし状かも」


貼ってあるシールを剥がして、無造作に取り出す空に視線を向ける。


こちらからは手紙の内容は見えないが、まあ男が書いたラブレターなんて興味はない。


女子のなら話は別だけど、飾り気のない封筒を見るにそれもなさそうだし。


「明日の放課後校舎裏で待ってるって」


「ベッタベタだな」


「よく知らない人にいきなり告白されても困るのよね。まあ知ってる相手でもそれはそれで困るけど」


その言葉に胸の奥がチクリと痛む。


「試しに付き合ってみたらどうだ?」


その痛みを振り払うように軽口を返してから、それが地雷原のド真ん中だと気付いた。


「それなら翔こそ彼女でも作ったら? ちょっとは青春できるかもしれないわよ?」


それをお前が言うのかよ。


一番言われたくない相手に言われたくない言葉を言われて、嫌な記憶が蘇る。


思い出すのはそう、およそ二年前の話。


苦い、苦すぎる記憶。

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