The Miller Man

Scene.084

 The Miller Man


 鏡面を伝う血液は、少し浮き上がって見えた。鏡に飛び散った鮮血と、そこに映る首の無い女の死体。そして、傍にはチェーンソーを持った男の姿。薄ぼこりを纏って幽かに光るブラウン管の向こうにあったのは、ゾクゾクする光景だった。

 善と悪は表裏一体だと謂う。そう、まるで鏡のようだ。けれども、僕たちは鏡を見たことあるだろうか。

「そこにあるじゃない」と私はカウンターの横を指差した。

「でも、あれには僕と君と室内が映っている。それは鏡を見ていると言えるのか」

「はぁ。面倒くさいなァ、君は。屁理屈って言うの、そういうの」

 でも……、と彼は腕を組んで。

「そんな曖昧なものじゃないのかな、善と悪って。その実態は誰にもわからない」

 砂糖に、ミルク……、と唱えながら彼は銀色のスプーンを回す。白いカップの中の琥珀色が濁ってゆく。

「すべては至極個人的な匙加減なのさ」


 これにて、了。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る