Ghost while December

Scene.082

 Ghost while December


 月を浮かび上がらせる雲。淡々と降る雪に桜の枝がたわむ。

 鈍く。青い光を放つ銀世界。水を張った様に澄み切った寒空。歌う声は遥か遠く。深く、沈んでいく。いつかの桜の面影は此処になく、ただ、月夜に枝が影を伸ばすのみ。

 それは雪を咲かせるかの様に。

「もう、三年になりますね」

 吐いた息の白さに、思わず魅入った。まるで、魂が抜けていく様で。

 二人で桜に刻んだ記憶など、もう消えているだろう。あの髪の艶も、極彩色の瞳も、鮮やかな表情も、透明感のある声色も。

 今となっては、全て空想の中。

 いつまでも散ることのない満開の花を咲かせている。

「また、この春に参ります」

 思い出に一礼して坂道を下った。

 踏みしめる雪は柔らかい。それは雲の上の様に。


 これにて、了。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る