君の名前を呼ぶとき
Scene.073
君の名前を呼ぶとき
夕暮れの部屋。ベランダへ通じる大きな窓。茜色の光が影を長くする。一日で最も影の長くなるひととき。壁に掛けられたコルクボード。貼り留められたメモ。空になったグラス。
「あっつー……」
バタン、と机に鞄を投げて、少女はブラウスをパタパタさせる。ガラッと窓を開け放つと、ふわり、と風に舞う黒い髪。ひらひらとスカートの裾が靡く。汗ばむ躯を風に任せ、ふと目を遣るコルクボード。メモ帳の白い切れ端が、風に遊んでいた。
少女はその切れ端を手に取って目を通す。そして、読み終えると鞄からブリキの筆入れを出し、赤いペンでそれに『×』と描いた。
「まったく……」
溜息混じりに呟いて、彼女はコルクボードに切れ端を貼り留める。白いレースのカーテンが、風に翻った。
これにて、了。
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