華鳥風月五月雨

Scene.061

 華鳥風月五月雨


 カラン、と音を立て、下駄が転がる。殺伐とした戦跡。辺りを埋め尽くす死屍累々。鉄の匂いを運ぶ風が揺らす土に塗れた昇旗。皐月空を彩る白い雲に、幽かな太陽が浮かぶ。風にはためく単衣の袂。殺伐たる合戦跡に女が一人、華を添える。その手に三味線。

「おい、女。此処で何をしている?」

 一人の男が聞く。鎧兜に身を固め、その手に槍と、腰に竹光。ひょい、と男を見遣り女はクスリ、と笑う。

「何が可笑しいか!」

「五月蝿い」

 刹那、仕込み杖から抜け出た白刃が男の喉元を突き刺し、そして、ひと思いに引き抜いた。噴き出す血が皐月空の青に映える。

「勿体ない」、と呟き女は白い髪を揺らして戦場を行く。

 その手に三味線。その音、響くは兵共が夢の跡。


 これにて、了。

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