俺は誰だ? ~WHO AM I ?~

テトとジジ

VOL.1 俺が誰だか探しにゆく

 俺は竹田広言。これでコウゲンと読む。珍しい名前だろ?

 そんな俺は今何してるかと言うと、コンビニ……ああ、コンビニエンスストアが正式名称な?

 そこへ行って来た帰りなんだよ。

 え? 喋り方がうざいって? それはよく言われる。

 でもさ、仕方ないんだよ。これでもう35年も生きてきちまったからさ。もう治る見込みなし。

 ってことでこのまま行かせてもらうぜ?

 そんでコンビニで……ああ、コンビニエンスストアね。

 そこから色々と買って来たのよ。主に食料をね。

 特にさ、カップ麺が大好きで10個も買っちまった。

 だからもう袋がぱんぱんさ。

 なんて思いながら歩いてたらさ……なんか足元にマンホールの穴みたいなのが出てきて落ちたのよ。


「……え? 落~~~ち~~~る~~~~~~~~~~~~!!!!」





 ……んん? なんだ? ……何も見えないぞ? え? なんで? あれ? そういえばなんかマンホールみたいな穴に落ちたような落ちてないような?

 なんて考えてたらいきなり激痛が走った。

 それは目から鼻から口から耳から……

 ありとあらゆる穴から何かが入ってきて、あまりの痛さに這いずり回る。

 ようやく痛みがなくなり冷静に現状を確認する。








 ふむ……こいつは地球という所からの生き物らしいな。

 ……すごいな、この生き物は。自分が嫌われていると分かりながら、それも個性と勘違いして胸を張って生きてきたのか。精神が図太いのか鈍いのか、判断に困るな。……まぁいい。確認作業を続けるか。

 特殊能力は? ……やはり何もなしか。ならいらないな。

 ……お? 何か持っているな。どれどれ……。

 こいつの記憶からするとこれは食べ物らしい。よし、久々に食料を食べてみるか。

 と思ったが、これはお湯を必要とするようだ。日本語でお湯とは100度近い水の事を言うのか、なるほど。

 だが、そんなものは無いな。残念。……お? 飲み物もあったのか。どれどれ。

 ふむ…… これは口で何かがはじけるな。初めて飲んだな。何やらシュワシュワする。炭酸飲料というのか。

 だが悪くないな。あとは……何も無いな。

 ならこの体もいらないな。どっかに捨てよう。




 竹田とやらを捨ててからどのくらい経ったか。次元の裂け目を作るには多分だが2週間ほど力が戻るのを待つ必要がある。

そしてその裂け目を作り出せる時間はわずか2秒だ。

 そしてその2秒の間に何かがこの世界へ来なければ、また2週間待たなければ次元の裂け目を作り出すことが出来ない。

 コンマ1秒でいいなら裂け目を20個同時に作り出すなんて事も出来るが、そんな短時間じゃ何も裂け目には入ってはくれない。

 正直2秒でも全くと言っていいほど何も入らない。

 このやり方を発見してからどのくらいの時が経っただろうか。

 数千、いや数万年は優に超えるだろうか。


 たとえば先ほど、と言っても2・3週間は前だが、竹田という奴がいた地球の価値観からすれば気の遠くなるような、時代がいくつも変わるような時間が流れているだろう。

 そんな時間が流れているにも関わらず、この次元の裂け目に入ってくる物は、無機物や能力が全くない者ばかりだ。


 きっと能力が高い者は次元の裂け目にすぐ気づくのだろう。だから裂け目に入ることは無い。

 という事は、こちらに来るのは何も能力を持たない者ばかり。

 頭も良くなく知識もなく、それでいてたいした行動力もない者ばかりだ。


 なぜこんな面倒な次元の向こうからやってきた者をひたすらに待ち続けているのかといえば、自分自身が裂け目に入って、ここではない違う世界へ行こうとするが、なぜかそれは出来ないからだ。

 出来るのは、この世界ではない所からきた者の体を乗っ取り、その体で次元の裂け目に入り違う世界へ行くという方法だけ。


 本当に面倒だ。


 だが、これしか今のところ方法が無い。外へ行く事が出来る唯一の方法なのだ。

 この方法でさえもほんとに奇跡のような物であっただろう。


 なぜこんな方法が出来たのかといえば、実はよく分からない。

 意思を持ち始めて数百万、いや数千万年の時を何も無い、何も見えない真っ暗な空間で生きてきた。

 その何も無い空間で何をしても何も起こらない。そんな時を過ごしたが、ある時、己の中に何かあるのを感じた。

 きっとこれは何かしらの力だろう。それを数万年かけてあちこちに飛ばした。

 そして変化が現れたのだ。それはただの土だった。だが初めてだったのだ。

 この世界で己以外に初めて違う物が、この何も無い空間へ現れたのだ。


 それからは夢中だった。力が溜まれば飛ばし、また溜まれば飛ばし……。

 それを数万年やり続けた。

 初めて次元の裂け目に落ちて、この世界へ来た生き物が来た時はそれはもう興奮した。初めて土が現れた時よりもさらに興奮した。

 その生き物は名前はわからない。だが先ほど|(2週間ほど前)来た地球の生き物で言うのなら、あれはライオンを小さくしたような形をしていただろうか。


 その初めての生き物をどうしようか迷った。近寄って触ろうとした。

 だが触ると恐れられ逃げられる。なら逃げられないように拘束しようとした。そうするとかなり暴れたのだ。

 今考えれば当たり前の事だろう。何も無い、光さえ無い場所へいきなり来たのだ。混乱しない方がおかしいだろう。


 だがその時はそんな事はわかるわけもなく、仕方なしにそいつの体の中に入ったのだ。

 そうするとどうだろう、たまたまだろうが脳という所へ入り込んだらしく、そこが体をコントロールする場所らしかった。

 そこで体を乗っ取る事に成功し、これからはこうすれば良いという事がわかったのだ。


 それからというもの、生き物が来たらまずは体の中に入り、脳を支配し体を乗っ取るという事が基本になった。

 そこで何体目だったか、記憶を探る事ができた。いや、正確には記憶が流れ込んできたといった方が良いか。

 何をしたわけでもないが、体の持ち主の記憶が読み取れたのだ。そこからだろう、色々な知識が己に入ってきて、この世界、違う世界。自分が何をして、この体の持ち主がどうやってこちらの世界へ来たのか。

 様々な事が理解できるようになった。

 知識は重要だという事もわかり、次元の裂け目を出鱈目に飛ばしていたが、生き物は大抵、地上にいる。なら地上を狙って裂け目を出せば良いという事もわかった。


 そこから知識を持った生き物が何体かこちらへ来て、それを乗っ取り知識を貪り……


 そして遂にこの世界から脱出する事に成功した。

 知識というものは偉大だ。自分が次元の裂け目に入るという発想すらなかった。

 そして入れないなら次はどうするという事も、体を乗っ取り知識を吸収したから分かった事である。

 その脱出方法は先ほども言ったが体を乗っ取ったまま、その体を次元の裂け目に入ること。

 ただそれだけだった。


 己自身は入ることが出来ない裂け目。だが外の世界から来た物ならば、また外へ裂け目を出し、そこへ送り出す事で違う世界へ行く事が出来るのだ。

 初めて知能ある者が来た時、その脳を支配した時に実行してみた。

 そしたら……


……


…………


………………




 何も分からずこちらに戻ってきていた。

 もちろん奪った体はなくなっていた。


 後から分かった事だが、きっと地中や岩の中に裂け目が出て、そこに入ってしまったのだろう。

 しかし諦めず知能ある者が運良くこちらの世界へ来た場合は、まずは知識を吸収し、そして次元の裂け目に入る。これを繰り返した。

 だが結局、違う世界で生きていけた数は数える程度しかない。


 なぜなら裂け目を出しても、きちんと地上付近に出るとは限らず、遥か空の上、水の中、土の中、宇宙の彼方もあった。

 ああ、そういえばマグマと言われる物の中もあったな。あれは苦しかったな。ほんの一瞬だったが。

 そこで初めて理解した。ただの即死や窒息で死ぬのではなく、強烈な痛みで死ぬのがこんなに苦しいとは……

 いや、窒息も苦しいんだが、よくわからず死ぬからそこまでではなかったのだ。

 だが痛みというのは明確な刺激である。それが死ぬほどとなるとかなりきつい。

 知識を吸収し記憶を読み取ると、拷問という痛みで人を苦しめる方法があるらしいが、なるほど、あれほど苦しいのだ。そういう方法を取るのも頷けるものだ。


 まぁそんなわけで違う世界へ行けてもまともに生活出来た回数は数える程度で、生き残れた期間も最長で6ヶ月という短い物だった。

 生き物によっては数千年は生きるのもザラにいるというのだ。その中の6ヶ月。あまりにも短すぎるだろう。

 しかし生きるのは難しい。とても難しいのだ。

 たいした能力もなく、言葉も分からず、それでいてお金なども何一つ持っていないのだ。

 どうやって生きて行けというのか? 

 そんな中で6ヶ月も生きられたのだ。結構頑張ったのではないかと我は思う。


 だが褒められた結果でも無いだろう。もう数万年もやっているのだ。この結果は納得できるものでもない。

 だが仕方ないかもしれない。

 知能ある者がこちらの世界へ来るのは数年に1度程度だ。

 その中で無事に異世界へ旅立てるのはさらに少なくなる。

 きちんと大地へたどり着けるのも少なければ、知能ある者に遭えるのもかなり難しい。

 何度、そこらの獣に食い殺されたか……。


 先ほども言ったがこちらの世界へ来る者は、能力が皆無な者が多い。武器なども持っておらず、ただの人の身であれば地球のただの犬にも食い殺されるほど弱い存在しか来ないのだ。

 そんなやつらの体を乗っ取った所で異世界へ行き、きちんと大地を踏んだとしても、獣のエサになるのがオチだろう。


 そんな中、運よく人里付近に次元の裂け目が現れ、そして言葉もわからず、何も持たない中、6ヶ月生きる事が出来た。これは幸運と言うほか無いだろう。

 ではなぜ6ヶ月で終わったかと言うと、家にいたらただの強盗に殺されたのだ。何のことは無い死に方だ。

 この時ばかりは数年何も出来なかった。それほどショックだったのだ。

 せっかく上手くいったのにくだらない事で全てが無に帰したのだ。


 そこではっきりと理解した。この世界は運が大変重要だと言う事に。

 だからだろう、こんな幸運を手放すわけにはいかないと気合が入るのは……。






 竹田という地球の人間が来てから早数ヶ月。知能ある者が2人来た。だがダメだ。何にも能力を持たず、また異世界の大地へ立つ事無く死んでしまった。そんな簡単に能力を持つ者が次元の裂け目に落ちるなんて事はない。だから大して気にしなかった。


 だが……だが遂に来たのだ。知能を有し能力を持った存在が……。


 その者の名はハリス・ゲイン・オオタケという者らしい。

 こいつも竹田の住んでいた世界から来た人間のようだ。デンマークと日本のハーフのようだな。父がデンマークで母が日本の生まれらしい。

 この体は今まで来た者の中でも一番優秀だ。

 とくに特殊能力を持ってるわけではない。だが遺伝子が優秀だ。

 地球に住む人間達は特殊能力を持つものはほぼいない。だが遺伝子が優秀な者達はそれなりにいるらしい。

 たとえばスポーツになぞらえると、酸素効率がいい遺伝子を持つとマラソンが、瞬発力に優れる遺伝子を持つと短距離が。

 というように、遺伝子によってかなり運動能力、身体能力に差が出るらしい。


 それでこのハリスという者は、そこそこの体格、そして恵まれた瞬発力、しなやかな筋肉という特性を活かし、高飛びという陸上競技をやっていたようだ。

 その記録は21歳9ヶ月で2M20cmと、あと少しで日本記録に届くかと言うほどの身体能力の持ち主。(ちなみに日本記録は2m23cm)

 最近の悩みはデンマークと日本の多重国籍の為、22歳までにどちらかの国籍にしなければならず、日本にしたいが父のデンマークの国籍にもしたいと悩んでいるようだ。まぁ、日本に住んでるから日本にするだろうと思ってるらしいので悩みですらないだろうが。


 そんな体を持つ者が現れたので歓喜……しているのではない。そんな物で生き残れるほど世界は甘くは無い。

 ではなぜ喜んでいるかと言うと、このハリスという者、小さい頃に手術をしており、心臓付近に金属が埋まっている。正しくは金属やらプラスティックやらが合わさった医療器具なのだが、その金属が問題なのだ。

 なぜ問題かと、その金属が完全に体に癒着しており、もはや融合と言っても過言ではないくらい己の体として機能しているのだ。

 これは賭けになるのだが、もし金属を己の体として融合する事が出来たら、何も武器を持たないこの体自身を武器にする事が出来るかもしれないからだ。


 分かっている。これは賭けだ。だが今まで次元の裂け目を作り出し、こちらの世界へ呼んだ無機物や有機物、すべてを合わせると数十万は超えている。

 そんな中で世界の数を数えてみると数万はあるだろう。そのありとあらゆる様々な世界の中から、この体が最も効果を発揮できる世界を選ぶ。


 まずはこの体が生き残れる酸素がある場所、高度すぎる文明がある世界だとセキュリティが厳しすぎるのでそこそこ高度な文明がある場所。

 そして……金属を体に融合できる力がある場所だ。

 考え出して、やはり1つしか無いと思い至った。


 以前、その世界の商人が酔っ払ってたまたま次元の裂け目に入ってくれた時に記憶を除いたのだ。そしたらその世界には酸素もあり、文明もそれなり、それでいて不思議な力、主に魔力と呼ばれる力が溢れているらしい。

 そこでならこの体に魔力と共に金属を融合しても拒絶反応を起こす事無く生き延びられるのではないだろうかと考えたのだ。


 どうせこの体は地球以外では生きる事は難しい。地球に次元の裂け目を出してもいいが、上にいける世界があるならそちらを目指すのもいいだろう。 時間は無限にあるようなもの、むしろあり過ぎて暇すぎて狂ってしまうので賭けてみようじゃないか。


 色々な可能性を。

 この体を使って生き抜くことを。


 そして……探してみようじゃないか。




 俺がなぜ生まれたのかを……


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る