炭酸

小鳥遊 遥風

一口目は何とも切なかった。

サイダーが好きだ。

キャップを開ければ、ほのかだが鼻先に甘い匂いが触れた。自分の口元へ、ゆっくりとだがペットボトルを運んで今日も夏とやらを嚥下した。何とも甘美だが、一口目は切なかった。

屋上のフェンスに肘を乗せ、真下の校庭へと目を向ける。体内時間的にはまだ二限目といった所だろうか。生憎、高校生だと言うのに松代ヨルは文明の発展を毛嫌って携帯を所持していなかった。今まで携帯を持ってなくて困った事は無かったが、こんな所で困るとは思ってもいなかった。盲点だった。


「…あつい」


毎朝天気予報を確認して来るが、今日は確か曇りだった気がする。なのに、ねっとりとした暑さが松代ヨルの頬を撫でた。たかが天気予報だが、されど天気予報だ。気にする事は無いのに少しでも外れてしまうと苛立ちを覚えてしまう、そんな自身の醜い心を呪った。

無意識に開けたままのペットボトルをまた口元に運んだ。二口目だったが、先程のような切なさは感じられなかった。

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炭酸 小鳥遊 遥風 @tkns033

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